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「あなたの思想は、私の心の灯だった。あなたのつくる『太陽の国』が見てみたいと思った。いくらゴダールの思想を叩き込まれても、私の中にはいつもあなたの声が、ここにあった」  リヒャルトは傷痕を大切なもののように擦った。 「私は少年団に入った頃から、いかにゴダールに近づくかだけを考えるようになりました。優秀な成績を収め、青年団にも首席で入団した。その後も要職に就くため、あなたには言えないような……汚いことも、たくさんしてきました……」  言いながら、その光景を思い出しているのか、美しい顔が歪む。 「でも、それはいずれ、ゴダールの傍に上り詰め、政権を覆せるような情報を握るため……!」  リヒャルトはまっすぐにエルネストの黒い瞳を見つめてきた。 「私の人生はすべて、あなただった! あなたに私の想いを信じてもらえなくても構わない! ただ、あなたの、エルネストの力になれるなら!」  その澄んだ青色の双眸に涙が溢れた。エルネストは首を横に振った。 「リヒャルト。おまえは、俺が言ったことをもう忘れたのか?」   疑う余地などない。あの日のことは誰にも、バッガスにさえも、話したことはなかった。  ――俺はあのとき、何もできないただの十三のガキだった。  ほんの一瞬前まで、あんなに楽しそうに笑っていた小さな男の子。その命を、未来を、奪う国などあってはならない。  思い出さない日はなかった。自身の無力さを噛み締め続けた。 「『太陽の国』を作りたいと思ったのは、本当はおまえのためだったんだ」 「私、の……?」  涙の膜に覆われた碧い目が瞬かれる。 「ああ。だが、どうしても信じられないというのなら」  エルネストは身体を折って、リヒャルトの腹に顔を近づける。そして、その傷痕に口づけを落とした。 「……っ」 「これで信じたか?」  顔を上げてニッと笑みを見せる。すると、リヒャルトはやっとその眼差しを緩め、頷いた。 「ええ……」  リヒャルトが見せた初めて笑みに、エルネストは眩しさを覚えた。 「もっと、そんな顔を見せてくれ、リヒャルト」  そう言って、目を眇めたときだった。リヒャルトの手のひらが伸びてきて、頬に添えられた。 「エルネスト……私は、あなたを」  続く言葉を口移すかのように、唇が重ねられた。 「……ん!」  リヒャルトの舌は性急に唇を割り、エルネストを探し求める。驚いたが、エルネストはすぐにその熱を受け入れた。自身もリヒャルトの後頭部に腕を回し、引き寄せ、舌を絡め合う。 「はぁっ、エ……エルネスト……ッ」 「リヒャルト……」  息継ぎの合間にお互いの名を呼ぶ。胸の奥の空洞が満ちていく感覚がした。  二十年の時を取り戻すかのごとく、お互いを貪る水音だけが、いつまでも室内に響いていた。

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