9 / 13

第4話

「麻薬工場の襲撃は、予定通り明日、実行に移す」 『太陽の国』の同志たちを前に、エルネストが宣言した。アジトの地下倉庫。隣に立つバッガスも声を張り上げる。 「いいか、おまえら! ただの工場襲撃だと侮るな! ゴダールの資金源を断つんだ。これに成功すれば数百億の金の流れが止まる。ゴダール政権の弱体化は免れない」  エルネストはバッガスに、リヒャルトの過去について、洗いざらい話した。誤解は解けたものの、いまだ警戒しているのか、今回の襲撃には連絡係としてアジトに残せ、という条件を提示してきた。  しかし、その条件を飲むことは、エルネストにとっても、やぶさかではなかった。  壇上からリヒャルトの姿を捜す。目が合うと小さく頷かれる。彼はまだ杖を突いていた。こんな状態のリヒャルトを現場に駆り出したくはない。  バッガスもリヒャルトも、いずれこの組織の両翼を担うことになる男たちだ。この襲撃が成功した暁には、きっとお互いを認め合ってくれるだろう。エルネストがそんな希望を抱いたところでバッガスの演説が終わった。いつもながら、バッガスは同志たちの士気を上げてくれる。だがエルネストは最後に釘を刺すように言葉を添えた。 「いつも言っていることだが、『太陽の国』はテロ組織ではない。むやみに相手を傷つけることは許さない。ゴダールの兵も思想が違うだけの、俺たちと同じただの人間だということを決して忘れるな」  こちらを見上げている全員が頷く。  元々、エルネストの思想に心酔し、集まってきた者たちばかりだ。ゴダールの圧政に苦しんだ彼らなら、暴力の連鎖が何も生まないことは深く理解してくれているはずだ。  決起会が終わると、エルネストは自室に戻り、ロイの集めてくれた資料を机上に広げた。そして明日の計画を頭の中でもう一度シミュレートする。  まずはバッガス率いる第一部隊が闇に紛れて村人を逃がし、用意している数台のトラックでサファルト村へと送り出す。工場の中には、手引きするための同志がすでに潜伏している。  そしてロイ率いる第二部隊がその間に、工場設備の各所に爆薬を仕掛け、村人の退避を終えたタイミングで爆破を開始。そちらに兵力が向かったところでエルネスト率いる第三部隊が倉庫の麻薬を焼き払う、という算段になっている。  極力戦闘は避けたい。しかしやむを得ない状況も想定されるため、武器の携帯は許可していた。  同志は元より、できればゴダール側にも、ひとりの犠牲者も出したくはない。 「……俺は、甘いんだろうか」  嘆息まじりにひとりごちた時だった。ノック音がし、扉が開かれた。 「エルネスト」  入ってきたのは杖を突いたリヒャルトだった。 「どうした、まだ寝てないのか」 「あなたこそ」  そう返して、リヒャルトは微笑む。彼はあれから、よく笑うようになった。その笑顔を見るたび、エルネストの中に愛しさが積み重ねられていく。リヒャルトはこの襲撃後、政府を辞め、完全に『太陽の国』の同志となることになっていた。  エルネストは立ち上がり、肩を支えると、リヒャルトをベッドの端に腰かけさせた。

ともだちにシェアしよう!