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一話:『一本の電話』
中学進学と同時に長年住み慣れた土地を離れた。
進学先が自宅から通える距離では無かった為、学院指定寮に入寮するつもりが食事及び行動制限のある生活と体を理由に本家側が指定する人材の元で、本家が所有する邸宅から通学するように命が下った。
何故、あらゆる権限を失くしさらには親と言う庇護者も去り、朝比奈として一切の価値が無くなった錦が本家側から此処まで関心と手厚い待遇を受けれたのか。
その背景には八歳年上の義兄、海輝の存在が有った。
不自由なく暮らしていた生活水準をさげる事はまず許さない。
錦に今まで仕えていた使用人の他に、幼い錦を庇護する大人の存在が必要である。
つまりは僕しかいない至極当然と言わんばかりに、本家側に海輝が食い下がったのだ。
当時学生の身であり社会的立場からしても余りにも未熟な彼が物を言っても当然反対される。
すると海輝は
「僕の義弟をどこの馬の骨か分からないやつに任せられるか!」
等と
「それはこっちの台詞だこの一般人」「お前こそ子供の癖に立場を弁えろ」
と言い返されるような暴言を吐き、恐らく彼が一族内で最も信頼してるであろう数少ない理解者である朝比奈 若狭を味方につけ現在に至る。
(実際錦はその場にはいなかったし、中学生の頃は事情があり海輝とはほとんど連絡事態取れない様な環境で離れて生活をしていた。海輝と本家とのやりとりは進学後生活が落ち着いた時に若狭に教えてもらったのだ。「私の元で暮らすと知った時の彼の顔。私を選んだくせに、悔しくて仕方ないと言う顔。あれほど面白い物は中々みれません」と楽しそうに笑っていた。)
当時大学生だった彼が朝比奈の幹部たち相手に良く交渉が出来たものだ。
どれ程の苦労が有ったのだろう。
下手をすれば、己の立場を悪くしかねない。
兎に角錦を蚊帳の外に置いて最終的には、当主の側近であり一族の切り札だとまで言われている男の庇護下に収まったのだ。
そして新しい環境で生活をして四回目の七月。
高校生活初めての夏の日に海輝から一本の電話が入った。
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