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二話:『抱っこしてお尻触りながらハスハスしたい』

『ねぇねぇ錦君僕だよ僕!! 君の愛しの海輝お義兄さまだ!』 「おい、なんだその挨拶は」 『元気かい? ところで君七月七日は七夕だ。織姫と彦星に負けてなるものか。会いに行くので僕達もデートしよう。君の顔が見たい君の声を聴きたい君に触りたい』  などと県外在住の義兄よりかかってきた一本の電話。  切羽詰まった声を受話器越しに聞き錦は額を抑える。  半分は「何なんだこいつは」と言う思いと、もう半分は「電話かけてくれた嬉しい」である。  好きな相手に求められるのは嬉しいものだ。  しかし、感情を滲ませない平坦な声で「海輝」と名前を呼んだ。 「ゴールデンウィークから二カ月しか経っていないぞ。盆休みまで待て」 『馬鹿だね君は。待てないからこうして電話をしてるんじゃぁないか。会おう! 会ってデートしてイチャイチャしよう』  誰が馬鹿だ俺は賢い。  そう言い返し、言葉を続ける。 「欲望及び感情は発露するものではなく、理性でコントロールしなくてはならない」 『いいや、君はお馬鹿だね! 僕は誰よりも感情のコントロールが出来てるから君は今、高校生活を送れているんだろう? 僕が理性的でないなら君の成長なんて待たずに、連れ去って学校も行かせず側に置いているよ。学校なんていかなくても君は十分聡明だし、第一僕以外の人間なんて必要ないでしょ? つまり本来ならば今頃君は、裸エプロンで僕とのラブラブエロエロな結婚生活を満喫してる筈だったんだ! でも錦君の制服姿可愛いから我慢したのさ。濡れ濡れ結婚生活は予定が数年伸びただけだから何も落胆する必要はない。楽しみが伸びただけだ』  この男に理性等と口にした俺が間違えていたのか?  錦は遠い目をした。 「仕事に忙殺されている社会人にとって休日とは、蓄積された疲労を癒すべくかなり貴重な時間のはずだ。だから体を休める為に使う事をすすめる。大型連休に帰省すれば良い」 『おいおい錦君。君は喉が渇いたと言う人間に、栄養を取れとステーキを差し出す類の馬鹿なのか。必要なのは渇きを潤す水だ』 「口を慎め。馬鹿とは何だ俺は賢い」 『つまり僕の疲労を癒すべく君が必要だ。君こそ活力の元であり僕の命の源であり生命の泉でもある。全力で啜りたい。はぁはぁ、錦君。抱っこしてお尻触りながらハスハスしたい』 「変態」 『そもそも僕はね、錦君不足で辛い。君が側に居ないのが悪い』 「俺の所為じゃない」 『いいや、君の所為だ。錦欠乏性貧血という恐ろしい病気を知らないのか!』 「勝手に新種の病気を作るな。お前、今疲れているんだろう。現在十九時だがまだ仕事中か? 今日は寄り道をせず帰宅したら早く寝ろ」 『成程。僕を拒むとは。つまり浮気でもしてるのか。僕が居ないから浮気してるのか。だから僕が君に会いに行くことを嫌がってるんだろう。君がそんなに厭らしい子だとは驚きだ。そうかそうか何処の誰だい? 僕の錦君に手を出した身の程知らずとソイツの親兄弟親類全部跡形も無く』 「お前は何を言ってるんだ。架空の人物の親兄弟親類に何をする気だ」 『疚しい事がないなら七日は僕と会えるはずだ。そうだ身体検査をせねば! むふ、むふふふ』  何を想像しているのか知らないが、厭らしい声で笑う。  錦を挑発して自分の望む言葉を引き出したいのだろうが、あまりにも聞くに堪えない内容だ。  冗談でも不貞を疑うような言葉は聞きたくはない。  実に不快だ。 「言って良い事と悪い事がある。誠心誠意を込めて謝れ」 『君みたいな美人さんを放っておく奴がこの世にいるだろうか? いや居ない。だから、七日は会って体の隅から隅まで調べなくては! ふひひ』  ――それは、こちらの台詞だ。   お前を放っておく人間などこの世にいるものか。

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