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『胸を鳴らせていた』

 揶揄うような口調なのに、目は真剣そのもので辿り着いた掌の下で心臓は早鐘を打っていた。  この男は余裕がある様に振る舞っておいて――こんなに胸を鳴らせていたのか。  酷く愛おしい気持ちになる。  手を伸ばして首を抱く。  素肌が重なるだけでも気持ちが良い。 「あぁ言うのは好きじゃない」 「じゃぁ、僕と厭らしい事するの好きでしょう?」 「余り変わらないじゃないか」 「じゃぁ、どういうのが良いのかな」  問われて錦は口ごもる。  如何いうのと言われると上手く答えられない。  性知識も経験もたいして無いのに、どういうのが良いかだなんて答えられない。  しかし一つ言える事は 「シャワーじゃないのが良い」  少しばかり恨みがましく言って見せる。

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