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第3話

「お時間は大丈夫ですか?」 尋ねられ、大丈夫だと答える。 「でしたらこの神社の移設前の写真が、白黒ですが残っていたと思いますので、そちらを見てみませんか?」 思いもかけない申し出に、一も二もなく頷く。 「それは見せていただきたいです。もし、ご迷惑でないのでしたら…」 「迷惑どころか、楽しいですよ。知らない方とこうやってお話しするのも、その手助けができるのも、一年に一回、いや数年に一回あるかないかの事ですから。」 ニコニコと笑顔でこちらにどうぞと言われ、その後ろをついて行く。 本殿とは少し離れた所に平屋の家が一軒建っていた。 お邪魔しますと言いながら、開けてくれた引き戸の中に入る。 「独り身なので、おもてなしなどはできませんが、どうぞ。」 そう言いながらスリッパを出してくれた神主さんに、実は私も独り身でと打ち明けた。 「周りはうるさいのですが、言うほど不便は感じませんし、自由ですしね。」 「ええ、してみればそれはそれで楽ですし、こうやって思い立ったら即行動と言うのも独り身だからこそと言いますか。」 「こういう場所ではなかなか分かっていただける方は少なくて…」 「ああ、そうでしょうね。東京でも結構言われますから、よくわかります。」 二人の間に思いもかけない連帯感が生まれ、まるで昔からの友のような気持ちが沸き起こる。 「あ、私柴野、柴野克敏(しばのかつとし)と言います。」 そう言って頭を下げる。 「かつとし…」 神主さんが私の名前を聞いた途端にまさかと言う顔をした。 「どうかされましたか?」 「いえ、実は私もかつとしなんです。」 「え?」 その答えに驚いた。 「卜部勝寿(うらべかつとし)と言います。」 漢字は違うが同じ名前という事で、先ほどよりも一気に二人の心の距離が縮んでいくような気持ちがした。 「かつとし」という名前はそんなに珍しいというものではないが、生きてきた中で同名いう人には一度も会った事はなかった。 そう言うと、 「そうでしたか。私はこう言う事をやっているので、何人かお会いしたことはありますが…」 そう言って、卜部さんは少し考え出した。 「どうかされましたか?」 「実は私にもこの神社の移設前の記憶が残っていまして。その記憶には私を含めて三人の子供が出てくるのですが…これがまた不思議な事に三人とも名前がかつとしと呼ばれているのです。」 「え?」 背筋に悪寒が走るのを感じ、ブルっと体が震えた。

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