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第5話

「どうぞ。」 コトンと湯呑みが置かれて、卜部さんが目の前にいる事に気がついた。 「あ、すいません…ありがとうございます。」 そう言って一口いただくと、爽やかな緑の香りが口の中に広がり、ほうっとため息が出た。 「心が落ち着きますね。」 卜部さんも飲みながら頷いた。 「こちらは卜部さんですか?」 少年が笑顔で映る写真を見つけて聞いてみる。 「ええ。私達家族はこの神社とともにこちらに引っ越して来ました。」 「それで、先ほどの卜部さんの記憶の話なのですが…?」 「全く同じなんです、芝野さんの記憶と。」 「え?」 「見知らぬ着流しの男性、屋台、夏祭り。私も同じ記憶なんです。違うと言えばただ一つ、少年の人数位ですかね?」 ふと見ていた写真の中に、裏に何か書いてあるのを見つけた。 手に取ってみると「かつとしくんと」と書いてある。 日付は、私が小学校に入る前の夏。 裏返すと先程卜部さんに確認した卜部さんの幼少期の少年と一緒に同じ歳くらいの男の子が写っている。 「卜部さん、これって?!」 卜部さんが手を伸ばして私から写真を受け取ると、「あ!」と言った切りじっと考え込んでしまわれた。 「卜部さん?」 しばらくして声をかけると、 「この子です。間違いない…この子が私の記憶の中の三人のかつとし君の内の一人です。」 そう言って、私に再び写真を戻す。 受け取って、その顔をじっと見るが、私の記憶の中には一切ない。 首を振って、知らぬ顔ですと卜部さんに言う。 「そうですか…。」 「ただ、この写真の裏の日付からすると、私の記憶と卜部さんの記憶はやはりリンクしているような気がするんです。」 卜部さんも頷いて、 「実はこの後すぐに移設されているので、芝野さんの記憶の中でのダムや移設という話と合致しているんですよ。そしてやはりかつとしという名前ですね。多分、いえ、間違いなく私達はあの夏祭りで会っています。」 「私もそう思います。ただ、私には後二人の記憶がない。それを思い出せれば…」 「先ほども言いましたが、私もここ最近になって思い出したと言いますか、出てきたと言いますか…なのでもしかすると、芝野さんもこれから思い出すのかもしれませんよ。」 「そうかもしれませんね。」 卜部さんとはこの先も情報交換しようという事になり、連絡先を交わして別れた。 家に戻ってすぐに、昔のものをひとまとめにして置いてある部屋で、私の幼少期の写真を見つけて卜部さんに送った。 すぐに連絡が入り、三人目でしたと結果が報告された。 あとは私の記憶の中に小さい卜部さんが出てくれば、私達は同じ記憶を共有している事になるのだろう。 そしてその時はすぐに訪れた。 ふとした時に思い出す記憶の中の夏祭りに、小さい卜部さんと三人目のかつとし君が出てきてくれたのだ。

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