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第7話
ちょっと休憩しましょうと卜部さんが立ち上がり、台所へ向かった。
すみませんと声をかけ、ふと持って来たカバンを見て「あっ」と思い出す。
カバンを寄せて中から小さな菓子折りを出し立ち上がると、襖を開けて卜部さんの消えて行った方に向かって声をかける。
「卜部さん、そちらに行っても大丈夫ですか?」
「え?あぁ、どうぞ。」
廊下に出ると、卜部さんが顔を出して手を振ってくれる。
「すいません、これをお渡ししようと思って忘れていました。」
台所に二人で入りながら、持って来た菓子折りを渡す。
「そんな、こう言う事はされなくても別にいいのですよ?」
「いや、実は私酒が苦手でして、大の甘党なんですよ。
こちらの店のおまんじゅうが美味しいと評判なんですが、消費期限が早い上にバラでは売ってくれなくて…それでまぁ、半分は私のため…と言うことで、こちら一緒に食べていただけませんか?」
「ふふふ、なんですか、それ?」
「いやぁ、面目ない…ははははは。」
二人で笑いながら、準備をする時間がなんとも心地良く、こう言う人とだったら私の結婚生活もうまくいっていたのでは?という思いに、おいおい相手は男だぞ…と、その思いを頭から振り払った。
「あぁ、やっぱり評判通りだ。」
「ええ、美味しいですね。」
居間に戻って二人でまんじゅうを頬張る。
「卜部さんはお酒は?」
「実は私もどちらかと言うと甘いものの方が…ただ、付き合いがあるので強くはなりましたが。」
「え…と、氏子さん達とかとの?」
間違えないように慎重になる。
「はい。こちらの方達は酒豪揃いで、私もいつの間にか…」
「それは大変なご苦労でしたね。私も挑戦はしてみたのですが、なかなか。」
「飲めなくてもいいんじゃないのですか?」
「それがやはり集まりなどで、飲む機会が少なからずありまして…毎回つぶれてしまうのもどうかと…」
頭を掻きながら実はと続ける。
「先日も町会の集まりがありまして、まぁいつものごとく潰れて気が付きましたら、ホテルのベッドの上で。」
「え?あの…そういう…のですよね?」
「そうなんですよ。相手がシャワー中だったので何事もなく逃げられましたが、この歳で自分の身にそんな事が起ころうとは想定外でした。」
話を聞いて卜部さんが黙り込んだ。
「どうかされましたか?」
「あ、いえ…そのー、大分力のある女性なんだなと思いまして…」
「あー、いやそれが相手は男性…かと。」
卜部さんの目が点になるが、すぐさまなるほどと納得された。
「そう…ですよね?あ、いやでも、芝野さんは私から見ても可愛い顔をしていらっしゃるから、なんとなくその方の気持ちもわかるといいま…あ、何を言ってるんでしょうね…すいません。」
卜部さんが湯呑みを持って、一気にお茶を飲むと、おかわりを持って来ますと言ってそそくさと部屋から出て行った。
残された私は卜部さんに言われた可愛いという言葉に年甲斐もなく心躍らせている自分に驚いていた。
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