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第13話
いつの間にかあんなに輝いていた日も落ち、田舎特有の真っ暗な道をタクシーで旅館まで走る。
「お待ちしていました。さあこちらへ。」
仲居さんが二人分の荷物を軽々と持ち、私達を部屋へと案内する。
入ると畳のいい匂いが鼻をくすぐった。
こちらをどうぞと淹れてくれたお茶を飲むと心が落ち着き、ほっとため息が出た。
夕食と朝食は広間で。
お風呂は…と一通りの説明をして、ごゆっくりと部屋から出て行く。
「ちょっと…」
卜部さんがそれを追いかけるようにして外に出て行った。
しばらくして戻って来ると、
ちょっと心付けをと笑顔を見せた。
「もう夕飯ですね?お風呂はその後にしましょう。」
二人で浴衣に、当たり前のように卜部さんが手伝ってくれて着替えると広間に向かう。
旅館の豪華な食事に箸が止まらず、ついつい食べすぎてしまった。部屋に戻るとすでに布団が敷いてある。
お風呂の準備を始める卜部さんに、私はもう少し後でにしますと言うと、それではお先に行ってきますと扉を閉めた。
ゴロンと布団に横になり、昨夜からの諸々を考えようとした時、ふと体に違和感を感じた。
暑い…いや熱い…?!
体の一点からくる熱さに動揺する。下を向くと、すでにそこは浴衣の上からでもわかるくらいに盛り上がり、身体中がまるで心臓になったようにドクンドクンと震える。
何が…っ?!
いや、そう言えば同じ事が昨夜も起きたではないか?!
あの時は卜部さんの髪の毛と膝に置かれた手が引き金になったと思っていたが、今のこの状況を考えると、それとは関係がなかったようだとわかる。
そう考えている瞬間も体はどんどん熱を持ち、汗ばんでいく。
寝返りを打ってその波を打ち消そうとするが、むしろそれを凌駕するほどの大波に飲み込まれて行くようだ。
「ん…っくぅ」
息が荒くなり、そこに我慢できずに溢れる淫靡な声。
「あっ…はぁ…あぁ…っんだ、これはっ…あっくぅん…やめ…っはぁあっん…」
自分自身の嬌声にも関わらず、何故か勝手に体が盛り上がって行く。今やソレは下着の中で窮屈そうに膨らみ、少し布に湿り気を与えているようだった。
「あっ…ダメ…だ」
手が無意識に熱の中心に伸びようとするのをなんとか押し留めるが、このままでいればいるでお風呂に行っている卜部さんが帰って来て、またもこの様な痴態を見られてしまう。
「この歳になって、こんな事…くぅっ!」
ここ何十年もしていない行為を、卜部さんに見られては困るから仕方なくと理由付けまでして、まるで初めてするかのようにおずおずとためらいながら、そこに手を伸ばす。
「その手を我に貸せ!」
あの例の声が聞こえた。
何だ?
思う間もなく、手が私の意識とは関係なく勝手に動き出した。
「な…に?」
片手が私の帯をスルスルと外し浴衣をはだけさせる。
「無粋なものをつけている。」
そう言って指を鳴らすと、履いていた下着が消えた。それまで窮屈そうに縮こまっていたソレが一気に自由になり、主張する様に天に向かった。
「着物の下にこのようなものは要らぬわ。」
段々と声がクリアに、私のそばに近付いて来る。
「さぁ、我にまかせよ。」
すぐ後ろから声が聞こえ、振り向いたそこにあの記憶の中のおじさんが、あの記憶のままの着流しで立って私を見下ろしていた。
「昨夜はせっかくの夜だったと言うに、力及ばず社の主にお前を持っていかれてしまい悲しかったのだぞ。」
その姿は透き通り、私に触れる事はできない。
「其方がこの地にようやく戻ると知り、少々無茶をしたのがまずかった。それでも今、其方はここにいる。我の手で直接触れられぬのは悲しいが、今宵は其方の手に憑らせて楽しもうぞ。」
あの時、卜部さんに声の事を話していれば、彼は心配してきっと私を一人にはしなかったはず。言わないと言う選択肢が生んだ結果にただ呆然とするだけだった。
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