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第16話

「柴野さん!」 唐突に体を揺さぶられ、目を覚ます。 瞬間、自分の状況を確認した。 今朝も珍しく、昨夜の事はまるでなかったかのように、私はきちんと寝間着である浴衣を着て布団の中で行儀良く寝ていた。 横を見ると、卜部さんが私を見ている。 卜部さんの方は昨夜のまま、全裸だった。 「う、卜部さん…何か着てらした方が…」 昨夜の事を思い出してしまい、顔が真っ赤になる。 しかし、卜部さんはそんな私の事を気にする事なく、話を続けた。 「私、昨夜あの男性を見ました!」 「あ…の、男性?」 「そうです!私達の記憶に出てきた着流しの男性。あの方が私の前に現れ…ん?」 「どうされました?」 「いえ、私はなぜこんな状況なのでしょうか?」 急に自分の状況に気が付いたように卜部さんがそばにある布団のシーツを体に巻き付けた。 「あの、こちらに浴衣と帯が…」 見つけたこれらを卜部さんに手渡す。 それらを申し訳ないと言って受け取ると、そそくさと私から後ろ向きになって身に着けた。 照れ笑いを浮かべて振り向くと、 「あ、そろそろ朝食ですね?柴野さん、話はその時に。ささっ、行きましょう!」 そう言って、私の背中を押すようにする卜部さんと広間に向かった。 朝食の間中、卜部さんの話題は昨夜の彼との事だった。 「お風呂から出た私が部屋に戻ると…戻ったところまでは覚えているんですが…それからしばらくの間の記憶が…?まあともかく、彼が急に私の前に現れ、なんだか怒っていらしたんですよね。」 「声は?」 「それが声は壁越しに聞こえるような感じで、言葉まではっきりとは…」 「そう…ですか。」 「それで、何故かは分からないのですが怒ってらして、多分この地に来たにも関わらず、すぐに彼の地に向かわなかった事に対してお怒りになられているのではないかと思いまして…柴野さん!」 「は…はい、何でしょう?」 「申し訳ないが、朝食を食べ終えたらすぐに彼の地に向かってよろしいですか?」 「あ…はい。」 卜部さんの迫力に押されて返事をしていた。 「ありがとうございます!それじゃ、出来る限り食べるのも早めでお願いします。」 そう言うと、卜部さんはかっこむようにご飯を食べ始めた。 「なんだか今朝はお腹がすいてしまって…。」 吹き出しそうになるのを何とか抑える。 私は、さすがに昨夜の彼とのコトが体の隅々にまで残り、体内に何かを入れるという気にはなれず、何とか飲めそうなお茶をすすりながらそれを見ていた。

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