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第24話

目が覚め、膝にあるはずの重さが無いことに気が付く。 周りを見渡すも、かつとしの姿はない。 やれやれと立ち上がり、洞窟の入り口に向かう。 「2、3時間前といったところか…」 岩に手を当てその物の記憶を読む。 かつとしが後ろを振り返り、その手を握られて引っ張られるようにしてここを出て行く。 我も甘くなったものよ。 ぐっと手を握り、手のひらを開く。 サラサラと砂が風に乗りそれらを運んで行った。 がくんと卜部さんの膝が抜けた。 「卜部さん?!」 「彼の方にバレてしまったようです。ここでお別れです。申し訳…なか…った。」 「卜部さん!!」 手を伸ばすが間に合わず、私の目の前で砂のように崩れ去った卜部さんの体が、風に乗って消え去った。 数時間前、肩を揺さぶられて目を覚ました。 目の前にいるはずのない卜部さんの顔があった。 「うっ?!」 声を出すのを卜部さんがその手で私の口を塞ぎ、シーッと唇に指をつける。 「何故ここに?!」 声を出さぬように尋ねる。 「彼は死にました。」 「かつとしさんですか?」 「ここでの暮らしが長かった彼に、私達の世界での暮らしは難しかったのでしょう。その瞬間に再び私は全てを思い出したのです…芝野さん、帰りましょう! 私は私の反省と後悔の為に貴方を騙してここに連れてきてしまった。そして今またそれらの為にここにいる。貴方をここから助け出す。それが私の貴方への謝罪。さあ、行きましょう!」 腕を引っ張られ、手を掴むと私を引っ張ってこの地を出た。 主様…っ!! 卜部さんの気持ちは分かるが、私は主様の側にいたい。 しかし卜部さんのキツく握る手に、その想いの強さを感じて抗う事が出来なかった。 何度も洞窟の方を振り返るが、主様は出てきては下さらなかった。 「神にも効く物でよかった。」 「何ですか?」 「彼の方が起きぬように少々薬を嗅いでいただいたのです。だから、私があの場所に入れたというわけで…」 「そういう事でしたか…」 主様が気づかれない理由がわかり、これは自力で何とかしないとと頭を巡らせる。 「このような事が主様にバレたら卜部さんの身に危険が…私は主様と生きていくと心決めました。どうかこの先へは私を置いてお帰り下さい。」 「…んですか、それ?!」 「え?」 「主様って、何ですかそれは?貴方が私を誘い私にあのようなコトをさせ、この心を乱したのに、主様と生きていく?」 卜部さんが噛み付くように喚く。 「私はこの身の危険も顧みず、あなたを助けにきた!それを帰れと?」 近くの木にどんと背中を押し付けられた。抵抗する間もなく、この体を反転させられ、木を抱くような姿勢を取らされる。 後ろから手が伸び、着ている着物の下半身の布を捲られた。 「下着はつけなくなったのですね。」 そこを隠すものは何もなく、全てが卜部さんの前に曝け出された。 「やめて下さいっ!」 「どうせ、彼の方に毎晩されているのでしょう?ここまできた私への褒美としてヤらせて下さいよ…ねぇ、芝野さん。」 舌で首筋を舐められ、ゾクゾクと悪寒がせりあがる。 「ひあっ!!いやっ!やめっ…あっ!!」 「うわっ!!」 卜部さんが変な声をあげ、私から離れた。 着物の前を合わせて振り向くと、卜部さんの膝から力が抜けてがくんとその場に崩れ落ちる。 「卜部さんっ!?」 「彼の方にバレてしまったようだ… はは…私はあなたに最後まで酷い男だった…芝野さん、ここでお別れです。申し訳…なか…った…」 「卜部さんっ!!」 消え去った卜部さんのいた場所を見つめる。そこに静かに彼が現れた。 「何でっ?!どうしてっ?!」 感情が溢れる。 「其方に手を出した。」 「それならば、あの夜に彼を誘惑した私も同罪…私も消して下さいっ!!」 「それは出来ぬ。我に其方を消すことはできぬ!」 近付く彼から逃げるように後ずさる。 「貴方はかつとしさんが長くはないという事も知っていたのですか?」 「其方に言ったはずだ。その時は近いと。」 「あ…。」 確かに電車の中でそう言う彼の声を聞いた。 「あぁ、私はそれを卜部さんに言わなかった。それを言ってさえいれば、もしかしたら彼はこんな事には…っしてください!私も消して下さいっ!!」 彼の胸の合わせを掴み哀願する。 「其方を消しはせぬ。」 「ならば、私を壊して下さい!!あなたの身で私を壊してっ!!」 泣き叫ぶかつとしを抱き上げるとそっと手を顔に掲げる。その意識を深い闇の中に沈ませ、洞窟に向かった。

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