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第29話

「祖神様、おはようごっ…桂は外に出てろ!」 「はぁ?僕だって祖神様にあいさつ…わっ?!」 何やら、足元の方が騒々しい。 目を開けると、我の腕の中で幸せそうに眠る克敏の顔。 「良き眺めよ。」 額にかかる髪をかき上げて口付ける。ブルっと震えて、何もかけずに寝ていた事を知る。 「そ…祖神様?」 足元から、囁くような声がする。 「楓か?」 「はい。昨日のお詫びと、朝のご挨拶に参ったのですが、このまま帰らせていただき、明日にでも出直して参ります。」 「今でも、我は別に構わんぞ?しばし…ん?」 克敏に布を掛けようと体を動かそうとして、違和感を感じた。 「んっ…ん…」 寝ているはずの克敏が、声を上げる。 「何だ?」 克敏の状態を見ようと体を起こそうとすると、克敏の身体が跳ねた。 「あぁっ!え?な…に?あっ!あぁ…やめっ…あぁっ!」 克敏がたまらぬ声を出し、その目を開けて我を見る。 「ぬしさ…ま、もう、むりで…す…あぁ…ぬい…て…あぁあっ!」 下を見ると、知らぬ間に寝てしまった為に克敏から抜かれる事のなかった我のが、その窪みを占拠するように膨らみ始めていた。 「あぁ、これは参った。」 抜きたくとも、抜けるような状況ではない。 これはもう仕方なき事と克敏の腰に手を回す。 「祖神様!?」 珍しく焦る楓の声を聞いて、再び足元に視線を落とした。 さすがにこのような我と克敏の秘め事を何度も見せるわけにもいかず、 「すぐに終わらせる。外で待て。」 そう言って部屋から出るように促す。 楓が入り口近くで呆然と立っている桂の手を引っ張って洞窟を出て行くのを見て、克敏に囁いた。 「そういう事なれば、少しキツめに動くぞ。」 必死に頭を振る克敏の腰を掴み直すと、 ずっと我のを受け入れっぱなしでいた為か、昨夜の残りのせいなのか、思いのほか滑らかに動くことができる。 克敏にはたまらんだろうが… 我のが奥深くまでも容易く入り、そこを擦り突き上げる。 しかし、我もこんなに毎日できようとは…これもまた我等の儀式…いや、克敏が我の唯一無二の者であると言う証やもな。 そんな事を考えながら克敏を見ると、必死に両手で口を押さえ、声を出さぬように我慢をしていた。 何故だ? ふと先程の会話を思い出す。 外に出した二人に聞こえぬ為か? さて、我としても克敏の声を聞きたいが、あやつらに聞かせるはやはり勿体ない。 これは難問…さてどうするか…? 克敏の体がビクンビクンと跳ね始め、その時が近い事が伺える。 口を覆っていた手が外れ、敷布をぐっと掴む。 「…っ!?」 声が出そうになった瞬間、我の口で克敏の口を塞いだ。 口の中に克敏の悲鳴が轟き、我のを絞るように動くそれに我もまたその糧を注ぎ込んだ。 荒い呼吸で汗ばんだ肩が上下に動く。ぐったりと我の膝に頭を乗せ、目を瞑る克敏の意識のないのを確認して、その身体に布をかけた。 「良いぞ。」 外に声をかけると二人がまるで親のそれを見た気まずい子供達のように入ってくる。 まあ、それに近いか。 二人を見ながら苦笑する。 それでも楓の方は先程までの焦った姿から、いつもの飄々とした態度に戻り、おはようございますと挨拶をする。 桂の方は…此方は楓の後ろに回り込み、我らを知らぬ者のような目で見ている。 「桂、あいさつは?」 楓に促され頭をちょこんと下げると、その身を楓の背に隠す。 「すみません、祖神様。」 楓が謝る。 「このような姿を見せてしまった我にも責任がある。桂、楓もすまんかったな。」 遠目で見た儀式のそれとは違い、目の前で事後の、しかも生々しい姿を見たのだからなと、ため息が漏れる。 「あの、そちらの方は?」 我の膝で安らかな呼吸をしている克敏に目を向ける。 「今は意識はない。」 楓がほらと桂を前に出す。 「どうした?」 何も言わずに俯いたままの桂に楓がため息をつく。 「此方様へのこのバカのしでかした事、本当に申し訳ありませんでした。ほら、桂!」 楓が桂の頭をぐっと押さえる。 「すいませんでしたっ!!」 桂が吠える。 「バカっ!」 楓が桂の頭を叩いた。 「大声を出したら、起きてしまわれるだろう!」 楓の心配通り、我の膝の上で克敏が動く。 「ん…」 「おはよう、起きられるか?」 「はい。あ、着る物が…」 「今はこのままでここにおれ。」 這い出ようとして、肩にかかっていた布がはらりと落ちる。 その上半身から下半身にかけてが露わになる寸前に、我の手で布に包ませ膝の上に抱き寄せた。 「え?主様?」 「客人がな戻って来ておるのよ。」 克敏が我の視線を追って二人の存在に気が付いた。 「あ!すみません…主様、お離し下さい。」 「己の格好を見てみよ。」 その霰もない姿に顔を真っ赤にして、我の体にその顔を隠した。 「克敏が動くと、我も困る。暫しこのままでいてくれ。」 かけていた布で克敏を包んだ為、我を隠すのは克敏の体のみ。話を聞いて、顔は我の方を向いたままで頷く。 「祖神様、私達はそちらの方をなんとお呼びしたらよろしいですか?」 楓が我らのやりとりの終わるを見て口を開いた。 「克敏をのう…ふぅむ。」 「婚姻したならお方様でいいだろ?」 桂がそっぽを向いたままで言い放った。 「そうだね。桂の言う通りだ。いかがでしょうか?」 楓が我に尋ねる。 「それで良い。しかし、やはりこのままでは話にならんな。」 「祖神様、私達はもう帰らせていただきます。また明日にでも伺わせていただきますので…それでは、お方様、失礼いたしました。」 克敏が呼ばれて顔を向け、楓に会釈をする。桂がふいっと入り口に向かおうとするのを、楓の手が頭を掴んで無理矢理下げさせた。頭を上げた桂と克敏の目があった瞬間、桂が駆け出して行った。 楓があっと声を上げる。 「行ってやれ!」 我の言葉に頭を下げ、克敏にも軽く会釈をすると、楓が桂の跡を追って走り去った。

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