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第32話
克敏が肉体のみとなってから、数日が過ぎていた。
朝になり、桂と楓が約束通りに我の洞窟を訪ねてきた。
されど我はただ、克敏の体を抱いたまま呆然と空を見つめ、楓曰く我の方が屍のようだったらしい。
その言う通り、我の腕の中の克敏の肉体はまるで今にも動き出しそうなほどに赤味が差し、体温もあり、魂魄の抜けた状態とは異なっていた。
しかし、それが動く事も、あの可愛い声で我を主様と呼ぶ事もない。
されど、我の糧を必要とする事は同じままだった。
我は気のない克敏の肉体に、毎夜毎夜その糧となる我の精を満たす行為を続けた。
「赦せよ、克敏…このような時でもお主に欲情し、お主を凌辱する我を許してくれ…っ!!!」
これがしなければならぬ行為と理解はしていても、我の心は冷静とは無縁。毎夜、その身体に我を刻みつけるだけでは満足できず、空の肉体のみにしかできぬような残虐な事まで行う始末。
「これでも起きぬのか…」
始めはその行為によって克敏に何らかの変化を感じられるのではと言う淡い期待があった。
されど、今ではそれは我の欲の赴くままに突き動き、克敏にその全てを受けさせていた。
先日も、その姿を見た楓が、あまりの酷さに驚き、憐れみ、克敏の肉体の手当てをするようになっていた。
今朝も楓が我の横に置かれた克敏の肉体に先夜出来たばかりの傷の手当てをしている。
それを夢現で見ていた我の手がその手を無意識に取った。
そのまま我の下に楓の体を滑らせるように仰向けに寝かせる。
足を絡め、両手を拘束し、頭上の床に押し付けた。
「祖神様っ!」
楓の焦る声が、克敏のそれに聞こえ、楓の顔が克敏の顔と重なる。
「主様、であろう?」
その顎に手を添え口を合わせようとした瞬間、頬に熱さを感じた。
楓が目に涙を浮かべ、我の離した手を震わせている。
頬に熱による痛みを感じて、体を起こしてさすると、楓がはっとして我を叩いた自分の手を見た。
「っ!申し訳ありませんっ!!」
楓が座り頭を床に擦り付ける。
それを見て、心が落ち着いていく。
「謝罪はむしろ我の方じゃ。悪いが今日のところは帰ってくれ。明日からは、桂と共に…良いな?」
「承知しました。それでは失礼します。」
何事もなかったように身支度を整えて、我に一礼して楓が出て行った先を見つめ、はぁとため息をつく。
あれが桂なら…激しい抵抗に我を忘れ、きっと克敏の魂は消滅していたであろうな。楓の冷静さをありがたく思う。
ふと横に眠る克敏に触れた。
温かい…なのに何故に動かぬ!
我がこんなにもその身をその心をその全てを愛おしく大切に想うているのにっ!!
起きぬなら、このままならいっそ…
我の手がその首にかかった。
我と共にその身も魂も堕ちさせようか。
さすれば、地の底で克敏に会える。あの欲塗れの地に二人堕ちて、永遠にその身を欲のままに抱き合える…っ!!
その手にぐっと力が入った。
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