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第35話
「祖神様、戻りました。」
楓が桂と箱の者のいる場に行ってから二日ほど後、楓が箱の中の者を連れて戻って来た。その傍にいるはずの桂の姿はない。
「桂を、置いて来たのか?」
尋ねる我に頷き、
「仕方ありません。死人を人の世とは異なるとはいえ、この生ある地に戻すとなればそれ相応の人質をと言うのがあちらの言い分ですし、私もそのつもりで桂を連れて行きましたから。」
そう言って俯く楓の頭をなでながら、すまぬと謝る。
「しかし、よく桂が大人しく人質となったな。」
「何で俺がこんなところで待たなきゃいけないんだと大暴れしてました…でも…」
くすっと楓が笑う。
「戻って来た時には私を桂の好きにしていいと。何をされても受け入れると言いましたら、それなら我慢すると。ただしそれをどのような意味にとったのか私にも分かりませんが、それで人質となってくれました。多分、何か美味しいモノでも食べさせろと言うのではないですか?」
くすくすと笑いながらも少し寂しそうな顔をする楓に、
「桂はまだまだ子供故、楓は苦労するな。」
そう言うと、
「それも含めて…」
愛しいと楓の心が流れてくる。
頷き、楓の腕の中で眠る箱の者に目を向けた。
「意識はないままでと、これもあちらからの「要望」です。」
「あい分かった。」
そう言って、楓から眠ったままの箱の者を受け取ると、克敏の横に寝かせる。
「祖神様、期限の方は?」
「我にも分からぬが、間に合う事を祈るしかあるまい…」
神が何に祈るのか…そんな事を思い苦笑する。
一度目を瞑り、すーっと息を大きく吸うと、楓がそっと立膝を突いた。
目を開けて、寝かされた二人の手を重ねて持ち、言葉を紡ぐ。
「我との先の約束により、この者と彼の者との交換を望む。元の者の命の灯の消えしなれど、その期限の猶予をもってこの者との交換をここに宣言し、それを切望す。また、この者も約束違わずにこの地において我と婚姻成就せし間柄なれば、その事がこの者がすでに我との約束を果たしていたと言う証。二人共、その身の置き所となる場へと戻れ!」
命を下し、手を振った。
ふっと箱の者が消え、すぐに桂がその後に現れた。
克敏に変化はない。
変わることなく寝息を立てている。
「祖神様…」
桂が我をじっと見つめる。
「楓、桂、すまぬが…。
様々なこと、感謝している。」
楓が口を一文字に結ぶと、桂に駆け寄り、その背中を押すようにして、一礼して出て行った。
それを見送ると、寝ている克敏を見下ろす。
「明日は大変な事になりそうだな。」
克敏の上に跨ると、口付けをする。
初めは軽く唇を合わせ、段々とそれが濃厚になっていく。
着物の合わせの中に手を入れ、胸を弄る。突起を弾くと、腰が一瞬浮いた。
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