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第36話

「克敏、目を開けよ。」 我の言葉に従うように、克敏の目が開いた。 しかし、それはまるで人形のように瞬き一つする事なく、固まったままで動かない。 「我を試すか?」 このまま我の言う事に反応する傀儡のような肉体のみの克敏で良いなら、これこのまま我にそれを抱けと。 もしそれに否を唱え、克敏の魂をも望むと言うのならそれを迎えに我も狭間に来いと言う事か…。 「選択肢にもならぬ。」 ふっと笑い、手で空間を裂く。 見えるのは狭間の闇。 一歩足を踏み入れれば、神である我とて戻れるかどうか分からぬ混沌の世界。 「されど…」 克敏の肉体を見下ろし、開いた目を手で閉じ、その体に布を掛け直した。 我が欲しいのは肉体ではなく克敏そのもの。 その器のみ手に入れたとて、何の価値もない。 我と呼応し共有する克敏の魂なれば、我がこここうやっていられるのも、克敏の魂が消滅していない証。 なれば迎えに行き、再び我の手で克敏を掴み取るまで。 開いている空間に向き直る。 こちらに気が付いた中の者達が、我を飲み込もうと手と思われる物体を伸ばして来た。 我は目を瞑り、それのするに任せる。 「主様っ!」 克敏の声が脳内で響く。 瞬間、夢の話を思い出した。 見ている。それとは分からぬ姿で我を見ている。 克敏はそう言っていた。 それなら克敏はここにいる。我の気付かぬ姿となって、今もこの場所で我を見ている。 目を開くと、混沌の手が我を掴む寸前、それを気で弾き飛ばし、空間を閉じた。 シンとなった空間の中、我の目がそれを探す。 生き物か、或いはそれとは異なものか。 縁 絆 繋がり 言葉が落ちてくる。 克敏か…? 我との繋がり…我と繋が…る? それが我の視線を捉えた。 「いや、まさかな…しかし。」 それに近付くが、頭を振って自分のこの馬鹿げた考えに苦笑する。 「混沌とは言え、さすがにこれはあまりにも…しかし、試してみるか?」 躊躇しながらも取り上げると、克敏の元に戻る。 手に持ったそれで克敏を傷めぬように、じっくりゆっくりと準備をする。 その間も何度もこの馬鹿馬鹿しい考えに手が止まりやめようとするも、それしかあるまいと言う思いが浮かび、ついに手に持った張り型を克敏の窪みより体内に挿れるに至った。 ゆっくりと動かしていた張り型を、我の気の昂りに合わせるように段々と激しく突き動かしていく。 それが頂点に来た瞬間、張り型がパキンと音を立てて割れ、消えた。 はっと気が付き、座って克敏の体を抱き上げた。 「克敏!目を開いて我を見よ!」 すーっと瞼が持ち上がり、克敏の目が我を見上げる。 「克敏!」 「…」 やはりな… 呼びかけに何も答えぬ克敏に肩を落とした瞬間、我の頬にあたたかい温もりが感じられた。 目を上げると、掠れた声で 「主様、戻りました。」 そう言って克敏が微笑んだ。

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