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第3話 勅令

『ユリウス・リメ最後の戦い 勝てば解放・負けたら死』 街を歩いていたアタシは劇画チックなポスターに足を止める。 最近街中に貼ってあるこのポスターはユリウス・リメとかいうゴリラの引退試合という名の公開処刑。 3匹の猛獣と戦わせて人間が勝てるわけがない。 食い殺される様を見たいなんて人間って悪魔より残酷じゃない? ジュールを連れて来た城塞都市ミゼルは兵士・戦士の産地で街中ムッキムキのゴリラだらけ。 王都から一番遠いからって理由で連れて来たけど選択ミスだったわ。 街の雰囲気に流されてジュールが俺も戦士になりたいとか言い出した時は本当にあせった。 いくら好きでもゴリラになられちゃ困ると魔法使いになるよう説得した日は本当必死だったわ。 あれから5年、少女の様だった少年は大人になろうとしている。 「ジュール。今日も好きよ。」 街から戻ったアタシは本を読んでいるジュールに後ろから抱きついた。 初めて抱きしめた時と違う感触。 背も伸びたし肩幅も広くなった、薄いけど筋肉もついている。 腰まであったきれいな髪も長いと邪魔とか言って切ってしまった。 「ちょっと、邪魔しないで。」 普通に邪けんにされるけど、ぜんぜん構わないわ。むしろ萌えるわ。 机の上には分厚い本が山積み。暇さえあればずっと読んでいる。 戦士にならなくて良かったと思うけど、これはこれでアタシが退屈。 ジュールは真面目で凝り性なのよね。一緒に暮らしてみて分かったわ。 「何読んでるの。」 「魔導書。」 「そんなの読まなくても魔力なんてアタシがいっぱいあげるわよ。」 「いらない。」 「あは。言うと思った。」 ツンツンしている所は昔のまま。そこが良いんだけどね。 さっき街はずれの路地で悪魔仲間のブエルとエリゴスに会った。 「最終通告だ。魔界に戻れ。いつまで遊んでいる。」 「ルシフェルがもう我慢できないってさ。セーレ、潮時だよ。あきらめな。」 君主ルシフェルからの勅令にはさすがにアタシも逆らえない。 今までは適当に胡麻化してきたけど、もう逃げられない。 強硬手段をとられてないだけまだましな方。 ブエルが戻る以外の選択肢はないと強く重く言う。 「今回は本気だ。戻らないなら執着の元を絶つだけだ。」 「分かったわ。戻るわよ。」 5年も居たんだからしょうがない。長すぎた。 ジュールを殺されるは困る。 魔界にも帰りたくもない。 悪魔の眷属になるのも拒否られている。 さて、どうしよう。 抱き着いたまま意識が飛ぶ。 アタシが望む最良の選択は分かっているけど、選択したくない。 腕の中からの声で現実に戻った。 「何かあったの?」 「あったような。なかったような。」 ジュールを悪魔の眷属にして魔界に連れて行ければいいのだけれど、最近はこちらで仲間が出来たようで懸賞首討伐のパーティに参加していて楽しそう。 人形のような子が人間ぽくなってきた。 これはアタシが望んだことだったのだろうか。 言葉の意味が遅れて入って来た。今日は頭が回らない。 「あれ?今心配してくれた?」 「してない。」 「したわよ。うれしい。」 「悪魔のくせに、すぐうれしくなるな。」 うれしくって強く抱きしめてしまう。 普通に抵抗してくるから椅子も机も揺れて物が落ちて来る。 「ちょ…ランプ危ないって!セーレ!」 また意識が飛ぶ。 抵抗するジュールの声が遠い。 ああ、どうしよう。悪魔だけど神様が決めてくれないかしら。 アタシには決められない。 「ねぇ。賭けをしない?」 突然思いついた提案が口から出た。 「いやだよ。どうせ自分に都合のいい結果にするんだろ。」 「あら賢いわね。でも今回はそうでもないような。そうなるような。」 歯切れの悪いアタシをジュールが訝し気に見つめる。 「意味分からないよ。今日のセーレはおかしいね。」 いつものアタシは、どんなんだったっけ? やっばり今日は頭が回らない。 でも、ずっと分かっていたことを口にした。 「あら、知らなかったのアタシはかなり前からそうとういかれているのよ。」

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