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第一章・3

「僕、藤丘 七瀬(ふじおか ななせ)。よろしくね」  七瀬は、自分のグラスを丈士のグラスに傾けた。  かちん、と良い音が響く。 「その藤丘 七瀬が、俺にウイスキーをご馳走してくれた理由は?」 「お兄さんのこと、気に入っちゃったからなんだけど」 「何で気に入ったんだ」 「悪い人だから」  堂々巡りの問答に丈士はめまいがしたが、七瀬はおねだり声だ。 「ねぇ。お兄さんと、エッチしたい♡」  丈士は息を吐いた。  何だかんだ言ってるが、要するにナンパだ。  酔いも手伝って、丈士は七瀬に興味を持った。  自宅に連れ帰らなければ、問題ない。  ホテルで極上の美少年と、一夜の恋を楽しむのもいいだろう。 「いいよ」 「ホント? やったぁ!」  グラスを干すと、丈士は会計を済ませ、マスターにさよならを言った。 「火傷にはお気をつけて」 「そんなヘマ、しないよ」  そう。見かけがいいだけの男の子に、熱をあげるなんて考えられない。  丈士はそんな風に、七瀬を思っていた。  誰も愛したことのない丈士にとって、七瀬も通りすがりに触れ合う程度の人間だった。

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