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第一章・6

「ああ、さっぱりした!」  洗い髪をタオルで拭きながら、七瀬は丈士に声をかけた。 「お兄さんも、入ってきなよ」 「ああ、そうする」  もちろん丈士は、何食わぬ顔をしてソファで雑誌など読んでいた。  さっきまで七瀬の素性を探っていた、なんてとても思えない姿だ。  丈士は、同じように七瀬に自分を探られないよう、衣服や手荷物は全て脱衣所へ持ち込んだ。  シャワーを浴びながらも、注意深く七瀬の気配を探っていた。  幸い脱衣所に彼が忍び込むことはなく、丈士は少しホッとしてバスルームから出ることができた。  だが、七瀬を見て呆れた。 「また飲んでたのか」 「だってぇ。好きなんだもん、お酒」  さっきはウイスキーだったが、今度はジンを飲んでいる。 「可愛げのない奴だな。せめてカクテルにしてから飲めよ」 「おぉう!」 「何だよ」 「僕のこと、可愛くない、って言った人、お兄さんが初めて!」  妙な所に感激して、七瀬はグラスそっちのけで大きなベッドへ走った。 「早く! 悪いお兄さん、僕を抱いて!」 「変な奴」  丈士は、ベッドサイドにローションとスキンを準備した。

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