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第三章・5

「あの石川さん相手に、よくまぁはしゃいでたな」 「だって石川さん、すっごい悪い人なんだもん。びっくりしちゃった」 「じゃあ、彼と寝たら? 俺より効果あるんじゃないか?」 「それは、ヤだ」  シャワーで泡を流しながら、七瀬はふるりと震えた。  湯で濡れた栗色の尾が、縮みあがっている。 「石川さんは、悪い人だけど怖いもん」 「俺は怖くないのか」 「丈士さんは、悪いけど優しいから」  ふん、と丈士は鼻を鳴らした。  悪は悪だ。  石川さんも俺も、同じ穴のムジナだ。  それを、怖い優しいで区別するなんて、おかしな話だ。 「俺のどこが優しいんだよ。石川さんのシノギを手伝ってるんだぜ?」 「僕の奢りを飲んでくれたし、抱いてくれたし。あと、この家に住まわせてくれてるし」 「俺もとんだお人よしだったわけだ」  ざぶりと丈士はバスタブに浸かった。  すぐに、七瀬も入って来た。

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