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第四章・8

「もしもし、石川さんですか?」 『七瀬か。どうした?』 「今から、遊んでもらえない?」 『おいおい、どうした。お前は相良の情夫じゃなかったのか?』 「僕はそのつもりだったけど、丈士さんはそう思ってないみたい」  言葉にすると、鼻声になってしまう七瀬だ。  自分で思っている以上に、彼は傷ついていた。 『可哀想にな。おいで、可愛がってやる』 「ホント!?」 『ああ。あの時のクラブへ来い。待ってるぞ』  やったぁ、と七瀬は晴れやかな気分になった。 「石川さん、怖いと思ってたけど、優しい人みたい」  急いで着替え、七瀬はマンションの窓から翼を広げて飛び立った。  まだ小さな翼だが、魔力と合わせると空を飛ぶことができる。  雨は小降りになっており、雲の隙間から月がにじんで見える。  そんな中、七瀬は飛んだ。 「丈士さんのバカ。いいもん、石川さんの悪のタネいっぱいもらって、大悪魔になっちゃうんだもん!」  不機嫌と、意地と、強がりで、七瀬は夜の街へと向かっていった。

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