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第六章・5

 石川の待つ高級クラブへ、綿のパーカーを着た丈士が足を踏み入れる。  常人では許されない行為なのだが、店の人間はすでに丈士の顔を覚えていた。 「どうぞ。石川様がお待ちです」  うやうやしく、奥のテーブルへ通された。  ソファにふんぞり返る石川は、口角を上げて丈士を見た。 「よぅ、色男」 「何の冗談ですか」 「昨夜は七瀬を放って、自宅で浮気したそうじゃないか」 「相手はただのセフレです。それに、七瀬は俺の恋人じゃありません」  だから僕ちゃんは自由、ってか。  そう混ぜっ返して、石川はグラスを丈士に寄こした。 「なら、七瀬を俺にくれ。あのガキ、とんだ上玉だ」 「それは」  とまどう丈士を、石川は喉で笑った。 「惜しくなったか? 惚れてるな、やっぱり」 「石川さん。今夜の用件は、何ですか」  少しムッとして、丈士は石川にそう切り込んだ。

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