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第七章・3
七瀬のおかげで二日酔いが治った丈士は、午後から大学へ行った。
ゼミの研究室へ入ると、そこには当然ながら三嶋がいる。
いつもならあいさつ程度は交わす丈士だが、今日はその前を横切った。
目も合わさずに。
「ちょっと、相良くん」
三嶋が、そんな丈士の腕を掴んだ。
「何、無視するのさ。何か、気に障ることした?」
「あのさ」
丈士は、二日酔いの気怠さを借りて、イライラと言った。
「もう、やめないか。こういうの」
「どういうこと?」
「俺たちの関係、終わりにしよう、ってこと」
そんな、と三嶋の唇はわなないている。
「こないだ、部屋にも入れてもらったのに」
「そういうのが、うっとうしいんだよ」
あれがとどめだった、と丈士は言う。
「三嶋があんなに粘着質だとは思わなかったよ。もっと、ドライな関係だったはずだろ」
「始めはそうだったけど。でも僕、相良くんのこと、どんどん好きになっていって、それで」
「とにかく、もう終わり。さよなら」
「あの、七瀬って子のことが、好きなの!?」
急に七瀬の名が出てきて、丈士はとまどった。
今朝、二日酔いを治してくれた時の安らぎ。
(俺は、七瀬が好きなのか?)
「かも、な」
答えは、まだ出せなかった。
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