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第八章 暗転

 丈士を大学へ送り出し、七瀬は魔導書に目を通していた。  今にも振り出しそうな曇り空。  洗濯ものは乾燥機にお任せしたから、大丈夫だ。 「でも、ベッドパットを干したかったなぁ」  二人分の汗を、たっぷり含んでいるはずだ。 「昨夜もエッチしちゃったし」  丈士さん、優しかったな。  むふふ、とひとりでに笑顔になる。 「あ、でも。昨夜の丈士さんのタネは、あんまり悪の味がしなかったんだっけ」  何か、心境の変化があったんだろうか。  今夜、訊いてみようかな、などと考えていると、インターホンが鳴った。 「誰だろ」  防犯カメラのモニターには、一度見たことのある人物が映っていた。 「三嶋さんだ」  三嶋は、カメラに向かって手を振っている。  七瀬は、インターホンで三嶋に話しかけた。 「三嶋さん? 丈士さんは、大学だよ?」 「解ってる。今日は、七瀬くんに会いに来たんだ」  僕に?  疑問は浮かんだが、三嶋の表情は穏やかだ。  七瀬は、彼に対する警戒心を解いた。 「どうぞ」  そして、ロックを解除した。

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