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第八章・3
「紅茶、もう一杯いただけるかな?」
「あ、うん。いいよ」
七瀬がキッチンへ消えた途端に、三嶋の表情が変わった。
穏やかな笑みは消え、顔を引き攣らせてバッグを漁った。
手には、スプレーボトルが。
例の、ドラッグが入ったボトルだ。
そして三嶋は、それを七瀬のティーカップに注いだ。
全部だ。
(わずか少量であれだけの効果を引き出すドラッグを、一度に大量摂取したら……)
うすら笑う三嶋は、幽鬼の表情だった。
「お待たせ~」
「あ、ごめんね。ありがとう」
三嶋は新しく出された紅茶を数口だけ飲むと、席を立った。
「僕、行かなきゃ」
「え? もう?」
紅茶のおかわりを欲しがるくらいだから、もっと長居する気でいると思ったのに。
「とにかく、相良くんには気を付けてね。それじゃ」
「バイバイ……」
気を付けて、って。
「丈士さん、優しいんだけどな。悪だけど」
三嶋を見送った後、七瀬はリビングへ戻った。
「クッキー、まだあるし。紅茶、全部飲んじゃおう」
お菓子をかじりながら、七瀬は何の疑いもなく紅茶を飲んだ。
三嶋が、ドラッグを仕込んだとも知らずに、全部飲み干してしまった。
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