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第八章・5

「あぁ、降って来た! 七瀬、タオル!」  全身をしっとり濡らした丈士は、マンションへ飛び込んだ。  すぐに七瀬がタオルを持ってくると思っていたのに、その気配が無い。 「おーい。七瀬!」  返事も、無い。  何だよ、役立たずだな、とぶつぶつ言いながら濡れたまま部屋へ上がると、リビングに七瀬が倒れている。 「七瀬? おい、七瀬!?」  抱き起してみると、ぐったりとして力が無い。 「どうしたんだ、しっかりしろ!」  丈士の必死の呼びかけに、七瀬の瞼がぴくりと動いた。 「丈士、さん?」 「七瀬、救急車呼んでやるから。死ぬなよ!」  だが七瀬は丈士の手を取ってゆるく握ると、細い声で言った。 「マスターのところ、連れてって」 「マスター?」 「初めて、丈士さんと、会った、ところ……」  丈士は、なじみのバー『マノス』のマスターを思い浮かべた。  あの人は、医者じゃない。 「七瀬、一体何を言って……」 「お願い」  そこまで言われては、丈士は七瀬に従うしかなかった。  どんどん冷たくなっていく彼の体に焦りながら、自動車を走らせた。

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