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第九章・3
七瀬は、ぼんやりとカクテルを飲んでいた。
僕、どうしてここに居るんだろう。
今まで、何をしてたっけ?
大切なことを、忘れてしまっているような気がする。
ただ、そんな不安から逃れるように、甘いカクテルを舐めていた。
そこへ、新しい酒が七瀬の前に差し出された。
顔を上げると、マスターが微笑んでいる。
「あちらのお客様からです」
マスターの見る方へ目を向けると、背の高い青年が手を振っていた。
「知らない人。どうして?」
「七瀬さんのことが、気になるそうです」
七瀬がウイスキーのグラスを手に取ると、それを合図に丈士はカウンターの端からこちらへ席を移って来た。
「飲んで飲んで。俺からの、奢り」
「いいの?」
「美味しいよ」
七瀬は、丈士の寄こしたウイスキーを一口飲んだ。
「どう?」
「甘くて、フルーティ」
「いいね。お酒の味、解るんだ」
もう抱きつきたくなる気持ちを必死に抑えて、丈士はただ七瀬と共にグラスを傾けた。
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