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第九章・5
部屋に入った七瀬は、目をぱちぱちさせた。
「何かこの間取り、見覚えがあるような……」
いや、それどころか。
「丈士さんも、初めて会った気がしないんだよね」
胸が切なくなるような懐かしさを、七瀬は丈士に抱いていた。
だから、シャワーを浴びた後は自然と同じベッドに潜り込んだ。
「エッチ、する?」
「七瀬がOKなら、したいよ」
「ん~、どうしようかな~」
そうやって焦らしてはいるが、七瀬の心は決まっていた。
軽く瞼を閉じて、自分から丈士にキスをした。
「ん……、七瀬……」
丈士は、穏やかに優しくキスをした。
七瀬が消えてしまわないように。
七瀬が壊れてしまわないように。
唇を離すと、七瀬は照れたような顔をしていた。
「どうした?」
「キスしたの、初めてだから」
ああ、そうか。
このベッドで愛し合ったことも、全て忘れているんだ。七瀬は。
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