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貢サイド-3-
最寄駅の前には税金の無駄遣いとしか言いようの無い、何だか良く解らないモニュメントがある。
そのモニュメントの前にかれこれ俺は十分以上立っていた。
約束の時間は八時だったはずだが、未だに待ち合わせの相手は現れない。
待つのにも飽きてきたので帰ろうと踵を返した時、駅の方から俺を呼ぶ声がした。
振り返ると改札口の向こうにターコイズブルー色のハイネックセーターを着た女が俺に向かって手を振りながら俺の名前を呼んでいる。
改札を抜け小走りで近寄ってくる。
「志野久し振り! こんな所で何してんの?」
顔を間近で見たが、誰だか分からなかった。
小さい顔にパッチリとした目に少し低い鼻と小さい口、多分世間一般では可愛いと称される顔だ。
だが記憶に無い。
俺の名前を呼んでいる事から相手は俺を知っているのだろうし、俺も知っているはずなのだろう。
だが、やはり思い出せない。
まぁいいか。
「そっちこそ何してんだ?」
「私はこれから合コンだよ。志野もそうでしょ?」
話が、かみ合っていない気がした。
「今日の碧高と聖女の合コンに行くんでしょ? だって志野の名前あったし」
ああ。
伊東が言っていた合コンか。
「俺は行かないよ」
「え―っ。うそぉ~、志野 来ないの? だったら私も行くのやめようかな」
「じゃあ、暇なんだ?」
「うん。今暇になった」
抱き枕になって欲しい事を告げると、女はそれを快諾したので、俺は名前も思い出せない女を連れ立って改札口をくぐった。
電車を二度ほど乗り換えてたどり着いたのは、けばけばしいネオンに彩られた歓楽街だった。
女は俺の腕を引っ張りながらどのホテルに入ろうか楽しそうに選んでいる。
「ただ寝るだけなんだ、何処でもいいだろ」
「何処でもいい事ないよ~」
頬を風船の様に膨らませて、拗ねたような顔を作ったその時、ズボンのポケットの中で携帯が鳴った。
だるそうに携帯に出ると、相手は待ち合わせの相手だった。
『今、何処に居るの?』
「お前が来るのがあんまり遅いから別の奴見繕った」
『えぇ! 酷い!』
「遅れて来る方も悪いだろ?」
このままダラダラと話すのは疲れるので、携帯を切るとそのまま電源をOFFにした。
会話を聞いていた女は嬉しそうに俺の腕にしがみついて来た。
「そういうところ全然変わってないね」
「どういうところ?」
「ロクデナシ」
「そりゃどーも」
俺は薄く笑った。
女はどのホテルに入るか決めたらしく、俺の腕を引っ張って入り口に入っていった。
ロビーでもやはりどの部屋へ入るか楽しそうに選んでいる。
ただ眠るだけなのに。
「ねぇ志野は何処がいい?」
「俺は何だっていいよ」
「むっ。じゃあココだ」
元気よくボタンを押す。
俺は鍵を受け取るためにフロントに向かうと、女はカルガモの仔のように俺の後ろをテコテコついて来て、嬉しそうに腕にしがみついてきた。
「行こう」
俺は言われるまま部屋へ向かった。
女は部屋に入ると勢いよくベッドに飛び込んだ。
「本当はホテルなんかじゃなくて志野の家に行きたかったな」
ベッドの掛け布団を抱きしめながらそう言った。
「今、弟と一緒に住んでいるから駄目だ」
「志野って弟いたっけ?」
「いるよ」
嘘を吐いた。
弟はいるが、一緒になんて暮らしていない。
俺は自分のテリトリー(部屋)に他人を入れたくなかった。
自分からは今まで入れなかったし、これからも入れないだろう。
以前付き合っていた女が勝手に住所を調べて管理人を騙し、家に上がりこんでだ時は気持ち悪かった。
一気に冷めた。
住居侵入罪だという意識は無かったのだろう。
恋して熱に浮かされている時の人間なんてそんなものだ。
自分が好意でしている事は相手にとっても良い事だと信じて疑わない。
それとも、自分だけは許される存在だとでも思っていたのだろうか?
他に何人もいた彼女達の中で自分だけは特別だと……。
腹立だしさと気持ちの悪さで、三日しないうちに俺はその部屋を出て行きもっとセキュリティの硬い部屋へ移り住んだ。
管理人には誰に何を言われても部屋に入れないように何度も釘を刺しておいた。
その甲斐あってか今の部屋には弟しか入った事はない。
本当は弟も入れたくは無いのだが、あいつは合鍵を勝手に作って持っていやがるので、入るなと言っても入る。
入るなと言えば言うほど入る根性悪なので無視する事にしていた。
「ねぇ、本当にしないの?」
俺のシャツを引っ張りながら、上目遣いで女は訊いた。
「寝るだけだって言っただろ」
「それはそうなんだけど……。私、志野のH好きなんだよね」
何を言っているのだこの女は?
俺はただ眠りたいだけなのだ。
そのための抱き枕が欲しかっただけで……。
それを了承してここまで来たはずなのに。
「私と一緒に居てしたくならないの?」
「ならない。だから大人しく寝てくれ」
俺の言葉を無視して女は股間を弄り始めた。
女のその行動が癇に障り荒々しく女の手を払いのけると、俺は足早にホテルを後にした。
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