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貢サイド-12-

 光に彼女が居るという事実を知った日から一週間が過ぎた放課後。  光は生徒会の仕事で遅くなると言うので、仕方なく一人で帰る事にした。  本当は待っていても良かったんだが、待たせるのは申し訳ないから先に帰っていてくれと光に言われては帰らない訳にはいかない。  とぼとぼと門に向かい歩く。 「志野原先輩」  門を潜った所で女に呼び止められた。  見ると、その女は他校の制服を着ている。  誰だ? 「この間はどうも」  この間? 「あの……私、光君の彼女の西村加奈子です」  ああ、光の……。 「何か用?」  俺はそっけなく尋ねた。 「もう、帰るんですよね? ご一緒してもいいですか?」  光ならまだ校内にいる。  碧校の生徒に訊けば直ぐにそれが分かるはずなのに、光を待たずに俺と一緒に帰るのか?  嫌な予感がした。  女を無視するかのように歩き出すと女は後ろから付いて来た。 「一ヶ月ぐらい前から光君全然会ってくれないんです」  見ず知らずの俺に恋愛相談ぶつけるなよ。  いや、その前に無視された事に気が付けよ! 「先週の誕生日の日だって最後まで一緒に居てくれなくて……」  俺のところに来たからな。 「志野原さん、何か知りませんか?」  知っているよ。  知っているけど教える義理なんかないね。 「あんたさ、何か間違えてない? 俺とあんたは、先週運命の悪戯で偶然出会ったたけの赤の他人で、こんな話持ち掛けられても困るんだけど」  俺は無表情なまま冷たく言い放つ。  女は一瞬たじろぐがお構いなしに続けた。 「あ、ごめんなさい。でも、私こんな事相談出来る人他に居なくて……」  たった一度しか会った事がない俺に出来るのなら、道端の犬にでも出来るだろうよ。 「勘違いするぜ。あんたが俺から同情引こうとしているんじゃないかって」  女はじっと俺の目を見つめた。  まさかと思った。  光が選んだ女がそんな女だとは思いたくなかった。  だが女が全身から伝えている空気が、以前俺に近付いて来た女に似ていた。  俺と付き合うために俺の友達と付き合い始め、友達ぐるみで仲良くなった所で俺にモーションをかけてきた女。  平気な顔で俺の友達を切り捨てた自分勝手な女。  俺は疑惑を確かめるために、心にもない事を言った。 「慰めてやろうか?」  女の顎を軽く持ち上げると、女はうっとりとした顔をし、簡単に目を閉じた。  俺の中に黒いものが広がっていく感じがした。  俺の心を支配しているのは怒りだった。  この女の全てに怒りを覚えていた。  光の彼女である事。  簡単に光を裏切ろうとしている事。  俺が欲しいと渇望しているものを簡単に捨てようとしている事。  怒りで目が眩みそうだった。  気が付けば俺は光の女とホテルに来ていた。  女はなれた風で、シャワーを浴びている。  不意に携帯が鳴り始めた。  聞き覚えのない着メロ……あの女の携帯か?  掛けて来た人間が光ならこの状況を引き返せるかもしれない。  そんな淡い期待をして、あの女の鞄から携帯を取り出し、通話ボタンを押す。 『……もしもし? 敏彦だけど今から出てこれねぇ? もしもし?』  期待を裏切るように、覚えのない声と名前に、無言のまま電話を切った。  見れば、アドレスには女の名前に混じって男の名前がかなりの数が登録されている。  あの女には、光の他にも男が何人も居るのだろうか?  そう思ったら黒いものがドンドン広がっていく。  携帯をもとの場所に戻すと同時に、バスルームの扉が開き女が出て来た。 「志野原さんも入りますか?」  俺は女を凝視した。  たいした事のない顔だった。  取り分け美人だと言うわけでもなく、特別に可愛いわけでもない。 「ヤダ、そんなにじっと見ないで下さいよ」  そう言いながら近付いてくる女の腕を力任せに引っ張った。 「きゃ!」  無駄に広いベッドに押し倒すと、身体に巻き付けているタオルを引き剥がした。  身体も大した事無かった。 「志野原さんてクールそうに見えて、結構熱っぽい人なんですね?」  こんな女の何処がいいのだろう?  顔も身体もたいした事ない、しかも男にだらしない女。  俺には全然分からない。  でも、光はこの女の良い所を見つけ好きになってやったんだ。  それなのに……バカな女だ。  俺は女に口付けをした。  怒りと憎しみ。哀れみと侮蔑を込めて……。  俺は淡々と機械的に女を抱いた。  女の言葉にならない声が気持悪かった。  絡みつく髪が腕が気持悪かった。  こんな女本当は抱きたくなんかない!  でも、この女が光の傍に居る事は許せなかった。  光は本当にいい奴なのだ。  優しくて温かくて……。  こんな汚い女が傍に居ていいわけがない!  女に求められる度に怒りを覚えた。  光を簡単に手放しやがって……バカやろう!  バカやろうが!  怒りに任せて女を貫いた。  女の爪が身体に食い込む度冷めていった。  心のないSEXで良さそうにしている女が信じられなかった。  心がないどころか憎しみを向けられているというのに……。  寒かった。  心が凍り付いていくのが分かった。  息が詰まりそうだった。  消えて無くなってしまいたかった。  ベッドに女が寝ている。  俺は身体に気だるさを感じながら裸のままベッドから出ると、床に脱ぎ散らかしたままの制服からタバコを取り出し火を付けた。  軽く煙を吸い込む。  相変わらずタバコは不味かった。  天に昇っていく煙をぼんやり見つめた。  この女の名前は何だっただろう?  何度か聞いた気がするが……。  全然思い出せなかった。  ただ一つ分かっている事は、この女が光の彼女だと言う事だけだ。  タバコを持つ手が震え出した。  気が付けば俺の目から熱いものが流れていた。  この後確実に訪れる終わりを感じて……。

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