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第7話 危機はいきなりやってくる -2

 五限目を最後に塚本の姿が見えない。  昨日は昼休みが終ってから、一昨日は学校に来なかった。  今週、一度も帰りのHRに顔を出してない。  別にオレは困らないけど、 「今日も掃除当番サボる気だ」  と藤堂が怒っている。  藤堂と塚本は掃除の班が一緒だからな。  オレ今週当番じゃないから、「大変だな」と言って笑っていた。 「そう思うなら探してきてよ」  それが裏目に出たらしく、箒を持った藤堂に強い口調で言われてしまった。 「何でオレが?」  オレは全く関係ないというのに。 「暇そうだから」 「これから帰るんだけど」 「探してから帰ってもそんなに遅くならないよ」  美少年の武器である笑顔を向けられて、それ以上言い返す気が無くなってしまった。  早く帰っても特にする事も無いので、渋々ながら塚本探索を引き受けた。  けど、この学校のことを良く知らないオレが、探して見つけられるとは思えない。  そもそも、既に帰っている可能性もある。  とりあえず、この前の屋上に行ってみることにした。  他に行きそうな所知らないし。  屋上に鍵がかかっていたら諦めようと思ったら、扉は簡単に開いた。  それで確信した。  塚本はここにいる。  前と同じ場所で塚本を発見した。  今日はフェンスに寄りかかる態勢じゃなくて、コンクリートに横たわって完全に寝の態勢に入っていた。  起こすのも忍びないくらいの熟睡。  何故学校で、しかもこんな所で眠れるのか。  まぁ、前はオレも一緒になって寝ちゃったけど。  目が覚めたら五限目始まっていて、先に起きていた塚本が「飯食い損ねた」と呟いた。  「じゃあ起こせよ」って言ったら、「俺も今起きたトコ」と返された。  ついこの間のことなのに、ちょっと懐かしい。  そう言えば、あれから藤堂抜きで塚本と喋ったことないな。 「おーい」  近寄って、起こすにしては不十分な音量で呼ぶ。  起きる気配無し。  よく寝るよな、こいつ。 「あー、やっぱ塚本いるー」  乱暴に扉が開いた音と、人の声がして振り向いた。  扉から二人の生徒が屋上にやってきた。  到底一年生には思えない、初めて見る生徒だ。  多分、塚本の友達だろうな。 「鍵開いていたから、絶対確実だと思った」 「で、寝てるし」  どうしようかと戸惑っているうちに、二人がケラケラと笑いながらこちらにやって来た。 「あれ? 一年生?」 「塚本の新しいお友達?」  塚本の横に立ち尽くしていたオレに、ニ人が訊いてくる。  居心地が悪かったけど、とりあえず「はい」と答えておく。  ネクタイのラインを見るに、二年生のようだ。  やっぱり、塚本の元同級生だな。 「そっかー」  と、一人が上機嫌にオレを覗き込んでくる。  オレの身長が低いのを楽しんでいるようで嫌な感じだ。  こういう扱いされると、劣等感とか通り越して怒りみたいなのが込み上げてくる。 「じゃ、失礼します」  起きそうもないし、友達も来たし、藤堂には悪いけど塚本を連れて行くのは諦めて、屋上を去ろうとした。  けど、扉へ向かう足に反して身体は進まない。  少し痛いくらいに腕を掴まれて、何なら少し戻ったくらいだ。 「何ですか?」  単純に、オレに用があるのかと思って聞く。  だけどオレの腕を掴んだ二年生は、ただ笑っているだけで何も言わない。  代わりに、もう一人の方が口を開いた。 「遊ばない?」  誰が。  心の中で冷たくそう言って、手を振り払った。 「急いでいるんで」  振り払ったと思ったら、また同じ所を掴んでくる。  しかも、二手に分かれて、逃げられないようにオレを囲んでくる。  これは……ちょっとやそっとじゃ逃げられそうも無い。  だけど嫌な予感がして、何が何でも逃げなければいけないと本能が伝えている。  今までイジメとかそういういう目に合ったことないけど、これがその類のものだっていうのは空気で分かる。  助けを求めて塚本を見たけど、相変わらず気持ちよそうに寝ていやがる。 「あいつに助け求めるのは賢くないよー」  オレの腕を強く引っ張って、一人が笑った。 「ああして爆睡してる時は何があっても起きないから」 「そうそう」  引っ張られてバランス崩して、オレは引き摺られるようにして屋上の出入り口から更に遠ざけられた。  これでまた、逃げるのが困難になった。  今、オレは相当な危機に立たされている。 「塚本!!」  大声で呼んでも駄目。  でも今助けてくれそうなのは塚本だけ。  でも駄目。  じゃあ、オレは自分でなんとかしなきゃいけない! 「離せっ!」  できる限りの力で暴れて抵抗したけど、二人がかりで押さえつけられて全く効いてない。 「あんまり暴れると制服汚れちゃうよ?」  暴れているうちにうつ伏せに倒されて、頬にひんやりとしたコンクリの感触が当る。 「何すんだよ!!」  両手を後ろに纏められた上に背中に乗られて、全く抵抗できなくなった。  何だ?  殴るとか、蹴るとかされるのかと思ったのに、この状況は何だ?  てっきりリンチ系だと思っていたのに。 「塚本だったら気にしなくていいよー」 「当分は起きないと思うから」  オレの上で二人が笑っている。  すっげぇムカツク。 「あいつが留年した理由知ってる? 遅刻欠席が多くて出席日数足らなかったんだよ」  それは西原先輩が言っていたから知っている。 「そうそう。しかも病気とかじゃなくって、ただ単に『眠かったから』だって」  それは初耳だ。  ただ眠かったから留年したとは、一周回って凄い奴だな。 「頭良いのか悪いのか分かんねぇよな」  そう言いながらケラケラと笑っているのが癪に障って、そんな無駄な話の間も、オレは何とかして上の奴をどけようと頑張った。 「ほらほら、そんなに暴れないの」  からかうように言われて、グッと腕が引っ張られる。 「痛っ」  何かが手首に絡む。絡むって言うより、巻きつけられる。  キュッ、と結ばれて、それだけでもう手は自由を失った。 「何してんだよ! 外せよ、これ!」  何をしても解けないし、慌てている上に混乱してただ闇雲に暴れるしかできない。

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