13 / 226

第13話 それの自覚は突然に -4

「どっちにしても、何もなくて良かった」  だけど、塚本がそう言った時、やる気無しの口調が少し変化したように思えた。  ほっとしたような声音。  こいつ、本当に心配してくれていたみたいだ。  結構嬉しいかも。 「それでわざわざ来てくれたのか?」 「要らぬ心配だったみたいだけど」  無愛想にそう言ったのは、もしかして照れ隠し?  うわー……。  なんか変な感じだ。 「ありがと」  照れる、照れる。  こんな風にお礼を言うなんて照れすぎ。 「助けてやるって言ったし、な」  確かに言ったけど、「目の届く範囲」って条件つけてなかったか?  わざわざ迎えに行って、自分から範囲広げなくてもいいのに。  動いたりするのが嫌いで、寝すぎで留年した人間の行動とは思えない。  それより驚きなのが、お前が本気だったってことだよ。  あんな約束、てっきり忘れたと思っていたのに。  本気だったら嬉しい、とは思ったけど。  頭に実に都合の良い、自意識過剰なことが浮かんだ。  浮かんでしまったからにはもう沈められない。  もしかして、って期待する。  でもまさか、って思い直す。 「最近、遅刻しなくなったよな」  探るように訊く。  塚本は「ああ」とだけ答える。  それじゃ分からない。  オレの思い過ごしだと思うから、それ以上は聞けない。  動悸がする。  勝手な自惚れで心臓がドキドキしている。  ヤバい。マズい。  なんか変だ。 「目の届く範囲は、限られているから」  なんだよ、それ。  そんな理由で遅刻しなくなったのかよ。  遅刻して学校にいなかったら、オレはその範囲外になってしまうって事か?  オレの側にいるために学校に来ている?  こんな都合のいい解釈でいいのか?  良い訳ないよな。  自惚れすぎたよな。  だけど、一度そう考えてしまったらもうダメだ。  心臓が更にバクバクしてきた。  これは一体どうしたことだろう。  こんな現象は有り得ない。  塚本相手にこんな気持ちになるなんて、絶対にありえない。  でも動悸は止まらない。  制服の上から心臓押えて、痛いくらいに脈打っているのを確かめる。 「瀬口?」  オレの異変に気づいたのか、塚本が消極的に覗き込んできた。  なんでお前はそんなに心配性なんだよ。  この前初めて会ったばっかりなのに、なんでそんなに心配してくれるんだ。  いつもボーっとしているくせに、そういう所はマメなんだな。 「なんでもない」  そう言って笑ったつもりだったけど、うまく笑えたかな。  本当に何でもないから。  大したコトじゃないから。  ちょっとした変化が起こっただけ。  それも些細な変化だ。  ただ、塚本のことを好きだと思ってしまっただけだから。  隠しきれないくらいの熱さと動悸で、ちょっと参ってしまっただけ。  ホント、それだけ。  男に惚れるなんて、とんでもなく不本意だけどな。

ともだちにシェアしよう!