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第13話 それの自覚は突然に -4
「どっちにしても、何もなくて良かった」
だけど、塚本がそう言った時、やる気無しの口調が少し変化したように思えた。
ほっとしたような声音。
こいつ、本当に心配してくれていたみたいだ。
結構嬉しいかも。
「それでわざわざ来てくれたのか?」
「要らぬ心配だったみたいだけど」
無愛想にそう言ったのは、もしかして照れ隠し?
うわー……。
なんか変な感じだ。
「ありがと」
照れる、照れる。
こんな風にお礼を言うなんて照れすぎ。
「助けてやるって言ったし、な」
確かに言ったけど、「目の届く範囲」って条件つけてなかったか?
わざわざ迎えに行って、自分から範囲広げなくてもいいのに。
動いたりするのが嫌いで、寝すぎで留年した人間の行動とは思えない。
それより驚きなのが、お前が本気だったってことだよ。
あんな約束、てっきり忘れたと思っていたのに。
本気だったら嬉しい、とは思ったけど。
頭に実に都合の良い、自意識過剰なことが浮かんだ。
浮かんでしまったからにはもう沈められない。
もしかして、って期待する。
でもまさか、って思い直す。
「最近、遅刻しなくなったよな」
探るように訊く。
塚本は「ああ」とだけ答える。
それじゃ分からない。
オレの思い過ごしだと思うから、それ以上は聞けない。
動悸がする。
勝手な自惚れで心臓がドキドキしている。
ヤバい。マズい。
なんか変だ。
「目の届く範囲は、限られているから」
なんだよ、それ。
そんな理由で遅刻しなくなったのかよ。
遅刻して学校にいなかったら、オレはその範囲外になってしまうって事か?
オレの側にいるために学校に来ている?
こんな都合のいい解釈でいいのか?
良い訳ないよな。
自惚れすぎたよな。
だけど、一度そう考えてしまったらもうダメだ。
心臓が更にバクバクしてきた。
これは一体どうしたことだろう。
こんな現象は有り得ない。
塚本相手にこんな気持ちになるなんて、絶対にありえない。
でも動悸は止まらない。
制服の上から心臓押えて、痛いくらいに脈打っているのを確かめる。
「瀬口?」
オレの異変に気づいたのか、塚本が消極的に覗き込んできた。
なんでお前はそんなに心配性なんだよ。
この前初めて会ったばっかりなのに、なんでそんなに心配してくれるんだ。
いつもボーっとしているくせに、そういう所はマメなんだな。
「なんでもない」
そう言って笑ったつもりだったけど、うまく笑えたかな。
本当に何でもないから。
大したコトじゃないから。
ちょっとした変化が起こっただけ。
それも些細な変化だ。
ただ、塚本のことを好きだと思ってしまっただけだから。
隠しきれないくらいの熱さと動悸で、ちょっと参ってしまっただけ。
ホント、それだけ。
男に惚れるなんて、とんでもなく不本意だけどな。
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