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第14話 あれこれ画策してみても -1

 不本意な自覚をしてしまってから数日後の事。  放課後、廊下を歩いていたらバッタリと会ってしまった。  できることなら、一生会いたくもなかった人物に。  向こうから歩いてきた二年生の三人組のうちの二人。  教室を出るのがもう少し早く、それか遅かったら会わずに済んだかもしれなくて、自分の運の無さを呪った。 「あれ? 塚本のお友達?」  そう言ってわざわざ近寄ってくるのは、この前屋上でオレを襲ってきた二年生だった。 「本当だー」 「何? 知り合い?」  この前いなかったもう一人が好奇心混じりに訊いている。  それに対して他の二人が「知り合い、知り合い」といい加減なことを言った。  知り合いじゃないだろ。  顔も見たくない。 「名前、なんだっけ?」  自分たちだって名乗ってないくせに、オレに訊くなよ。 「瀬口、ですけど」  あまり絡まれると嫌なのでぶっきらぼうに言う。 「下の名前は?」  なんでそこまで言わなきゃいけないんだよ。  と思ったけど、どこかに連れ込まれて、また危機に陥りたくはないから素直に言うことにした。 「……奈津」 「そんな顔しなくても平気だって」  オレが思いっきり睨みつけたら、この前の一人が苦笑した。 「この間のこと、弓月には言ってないよね?」  前に絡まれた時より、数段好印象な態度で訊かれた。  ギャップに戸惑う。 「言うも何も、その人とは一度しか会ったことないし」  弓月さんとは、塚本に膝蹴りをして颯爽を立ち去って以来、一度も会ったことはなかった。 「でもカオリちゃんと友達なんでしょ?」  つまりは、藤堂から弓月さんに話が漏れることを恐れているのだ。  そこまで怯えるような人なのか……。 「藤堂にも言っていませんよ。てか、言えませんから」  誰が友達に言うか、あんな事。  オレがそう言うと、二人は胸を撫で下ろして安心している。  そんなに怖いなら、最初からあんな事をしなければいいのに。  不機嫌に見上げていると、その視線を気づかれて頭を小突かれた。 「この間のことは謝るって。悪かった。だからそんな目で見るな」  それは無理な話だよ。  でも、この前の印象が強すぎて、最初から喧嘩ごしになっていたけど、こうして話をしている分には悪い感じはしない。  偉そうな言い方は引っかかるけど。 「そう言えば、藤堂のこと『彼織ちゃん』って呼ぶんですね?」  塚本もそう呼んでいたし、ちょっと気になって訊いてしまった。 「ああ……だって呼び捨てにすると弓月が怒り狂うから」  なるほど。  話に聞く限りだと、その弓月さんという人は物凄く藤堂に偏っている感じがする。 「『カオリくん』よりは『カオリちゃん』ってカンジだろ?」 「……どんなカンジですか」  分からなくもないけどな。  でも、そもそも名前で呼ばなければいいのに。 「なんかそんなカンジ」  ケラケラと笑って言う。 「でも、それを言うならお前も『くん』よりは『ちゃん』じゃない?」  オレの頭に手を置いて言う。  頭にきたから、勢いよく振り払った。 「何ですか、それは」 「だから……何だっけ、名前」  自分から聞いたんだから憶えとけよ。 「確か『ナツ』じゃなかった?」 「じゃあ『なっちゃん』だ」 「はあ?」  なんだよ、その近所や親戚のおばさんみたいな呼び方は。 「あっ、うん。そんな感じ」 「ナイス、黒見」 「こーゆーのなら任せて♪」  オレを無視して三人で盛り上がっている。  なんなんだよ、こいつらは……。  基本的なテンポが全く合わない。 「それでは、なっちゃん。この間の詫びってことで、これから学食で奢ってやろう」 「……結構です」  本心から断った。  係わり合いになりたくないから。 「【結構】満足や賛成の気持ちが動く様。申し分ない」 「By国語辞典」  三人がニヤリと笑った。  どうやらオレは、性質の悪いキャッチセールスに捕まってしまったようだ。

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