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第15話 あれこれ画策してみても -2

 この前屋上でオレを襲ったのが安達と仲井、あとの一人は黒見と名乗った。  ちなみに、オレに「なっちゃん」などと言うというふざけた呼び名を付けたのは黒見だ。  学食に連れ込まれたオレは、ジュースを奢ってもらうことになった。  本当は「何か食い物を頼め」と言われたけど、腹減ってないから断った。  と言うか、早く帰りたいんだけどな……。  これを飲み終えたらさっさと帰ろう。 「んで? あれから塚本とはうまくいってる?」  突然の質問に、口に含んだばかりのジュースを噴出しそうになった。 「ゲホ……ッ」  なんとか飲み込んだはいいけど、咽てしまった。  だって、今のニュアンスは、まるでオレと塚本が付き合っているみたいな言われ方だったから。 「え? そうなの?」  楽しそうに訊くのは、この前いなかった黒見だ。 「これが結構ラブラブでね」  いい加減なコトを言うな、仲井。  一体オレたちのどこを見て「ラブラブ」とか言えるんだよ! 「違う!」  力一杯否定したら、三人分の信じてない視線を浴びてしまった。 「またまた照れちゃってー」 「なぁ?」  安達と仲井がからかうように言う。  照れているのは否定できないけど、塚本と「ラブラブ」というのは全くありえない。  塚本のことを「好き」だと自覚はしてしまったけど、友達以上の何者でもない。  もっと言うなら、藤堂の友達くらいにしか思われていない可能性もある。  そんな状態じゃ「ラブラブ」にはなれないだろ。 「全然そんなんじゃない……から」  痛いなぁ。  好きな相手との関係を「そんなんじゃないです」と言うのも、そう言って沈む自分も、その相手が男だっていうのも、全部ひっくるめて痛いよなぁ。 「そっか、それは悪かったな」  ポン、と頭に黒見の手のひらが乗った。  これは……慰められている? 「……なんで謝るんですか」 「だって、なぁ?」 「一目瞭然だね」 「なっちゃん、塚本のこと好きだろ?」  三段落ち(落ちてないけど)で言われて頭が真っ白になった。  何故バレた!? 「今の切なそうな顔、結構そそるねぇ」  安達がニヤリと笑った。 「辛いコト訊いちゃって悪かったな? ほら、兄さんのカレーをお食べ」 「俺のうどんも食え」 「なんなら、肉まんもあるぞ」  口々に言って、三人が今食べているものを差し出してくる。  真剣に要らないんだけど。 「オレ、そんなに分かりやすいですか?」  死活問題に関わることなので訊かずにはいられない。  殆ど初対面の人間にこんなに簡単にバレてしまうようでは、オレの周りにもバレバレって事になる。  他でもない、塚本本人にも。 「気にする事ないって」  オレの肩を叩いて仲井が言う。  全く根拠のない軽口だという事は、雰囲気で察した。 「俺たちが協力してあげよう」 「あっ、それいいな」 「塚本ゲット大作戦?」  オレは何も言って無いのに、勝手に話が進み出した。 「ちょっと待ってください。協力とかいらないから、ホントに」 「あいつ仕留めるのに『大』はいらないだろ」 「でも『大作戦』って言う方が響きよくない?」 「あー……イイかも」  慌てて断ったけど、なんかもう止まらない勢いみたいなのが出来ていた。  ダメだ……。  この人たちにはまともに言葉が通じない。 「まず手始めに勉強でも教えてもらえば?」  カレーを食いながら仲井が言う。 「それいい。あいつ、ああ見えてやたらと頭いいから」  と言ったのは安達。  やはり塚本は頭が良いらしい。  まぁ、留年していたら関係ない良さだけどな。 「でもそれはオススメできないな」  ちょっと冷静に黒見が言った。 「なんで?」 「頭いいけど、教えるのはめちゃめちゃ下手」  うどんを食べていた箸を弄びながら言う。 「前に教えてもらおうとしたんだけど、全然ダメ。ほら、頭いい奴って自分は分かっているから、 解らないってことが理解できないんだよ。腹立って余計混乱してくるから止めといた方がいい」  その理屈は分かる気がする。  先生でも教えるのが上手い人と下手な人がいて、下手な人はこっちの解らない所が分からないからそこを素通りしてしまう。  質問しても、そもそもその質問が分かってもらえないこともあるし。  教えるのも、教わるのも難しいよな。 「つーかさ、塚本ってどんなのがタイプなの?」  何気なく言った安達の言葉に凍りつく。  言われてみれば、塚本の好みなんて全く知らない。  そもそも、彼女の有無すら不明だ。  普段の様子を見る限りいるとは思えないけど、いないとも言い切れない。 「さぁ?」  仲井も黒見も首を傾げている。  でもさ、好みのタイプ以前に、オレって男な訳だし……。  いくらなんでも塚本だって男よりは女の方がいいだろうよ。  自分で言うのも何だけど、オレだってそうだし。  望みは薄いだろ。 「あぁーっ!!!」  耳がキーンとなるくらいの大声を突然発したのは安達だった。  椅子から勢いよく立ち上がって、身体が前のめりになるようにテーブルに手を付いた。  安達の視線を追っていくと、それは学食の外へ向けられている。 「塚本博士発見!」  と言うなり、安達は駆け出した。  一体何なんだ?  ガラス張りの学食からは外の様子が見える。  学食を飛び出した安達は、外を歩いていた生徒に絡み、腕を引っ張って強引に連れてこようとしている。  どこかで見たことのある人だった。 「本部長、塚本博士を連れて参りましたぁ」  戻ってくるなり、安達はオレに向かってそう言った。  誰が本部長だよ。 「おー、西原だ」  黒見がその人の名を呼んで、やっとどこで会った人なのか分かった。

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