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第20話 なんとか進展はしたようで -1

 気づいたら学校が終わっていた。  あの後、塚本を置いて柔道部の部室を出てからの記憶がほとんど無い。  どこで何をしていたんだろ。  記憶が無いって怖い。  まぁ、どうせどっかでぼーっとしていたんだろうけど。  重い足を引きずって教室に戻ると、誰もいないと思っていた薄暗い中に明りも付けずに誰かが椅子に座っていた。  誰だ?  薄暗くてよく分らないけど、オレの隣りの席。つまり藤堂の席だ。 「藤堂?」  違っているかな? とも思ったけど、こっちを見たその顔は間違いなく藤堂だった。 「うわっ! 何!?」  驚いた藤堂は、ガタッと椅子を引いて中腰の態勢になっていた。  まるで、いつでも逃げ出せるような。 「暗いだろ」  教室の電気を付けると、藤堂は眩しそうに瞳を細めた。  明るくなって、改めて室内が暗かったことが分る。  こんな暗い中で何をやっていたんだろう。 「あー……もうこんな時間だ」  自分の席に戻って帰り支度をしていると、時計を見上げた藤堂の呟きが聞こえた。  オレもつられて黒板の上の時計を見た。  午後6時10分。  呆然とした。  こんな時間まで何をやっていたんだよ、というのは藤堂だけでなく、自分にも言いたい。 「まだ帰んないの?」  支度が終わって帰ろうとしたついでに藤堂に訊いた。 「瀬口を待ってたんだよ」 「オレ?」 「荷物置いたままだから、絶対に戻ってくると思って」 「何か用だった?」  こんな時間まで待っていてくれるなんて、もしかして急用か?  だったら、オレが教室に入ってきた時に言うだろう。  しかし、今までの時間をぼんやりと過ごしていただけに、罪悪感からちょっと焦る。 「用っていうのは無いけど、荷物置きっぱなしで気になったから」  なんだ、そりゃ。  申し訳ない気分になっていたので、拍子抜けしてしまった。  藤堂がイイ奴だという事は分かったけど。 「あーーっ!」  こんな時間まで姿を晦ましていた理由を考えようとした途端、藤堂が突然頭を抱えて大声を発した。 「つーのは言い訳で、本当は帰りたくねぇんだよ!」  ぐしゃ、と髪を掴んで、逆ギレっぽく言った。  何なんだよ、一体。  情緒が不安定すぎる。 「何かあったのか?」  と訊いてから思い出した。  弓月さんと喧嘩をしているという話を。  それ関係だろうか。 「ちょっと聞いたんだけど、弓月さんと喧嘩したのが原因?」  訊くと、藤堂は物凄い勢いでこっちを見た。 「はぁ? 誰から聞いた?」  睨むように見られて少したじろいでしまった。  藤堂はいつも可愛い感じだから、こういう表情は珍しい。 「……二年生の人たちに」 「ふーん」  真相が分って、藤堂の勢いが殺がれたらしい。  興味無さ気にそう言って、次にこっちを見た時にはいつもの藤堂の表情に戻っていた。 「でも、瀬口を待っていたっていうのはあながち嘘でもない」  言い訳じゃなかったのかよ。  ちょっと訝しんで見ると、藤堂はこちらではなく窓の外をぼんやりと見ていた。 「マサくんと何かあっただろ」  ぼんやりとしたまま鋭いトコを突いてきた。 「……塚本はもう帰った?」  はぐらかしながら塚本の席を見た。  いつも鞄とか持ってきてないから、席を見ても帰ったのかどうかは分らない。 「うん。HRが終わってすぐに」  そっか、帰ったのか。  ほっとするやら残念やら…。 「二人して授業サボって、マサくんだけ戻ってきたと思ったら、なんとなーく瀬口のこと気にしてるし。何かあったな、と推察してみたんだけど?」  オレが複雑な心境でいる間も、藤堂の鋭い突きはチクチクと痛いトコを攻撃してくる。  あったにはあったけど、オレが勝手に憂鬱になっているだけで、塚本本人には関係のない事だし。  でも……。 「オレのこと、気にしてた?」 「してたよ」  藤堂の思い過ごしでも、そう言われると嬉しい。  未練がましいな。 「マサくんはね、言葉が足りないんだよ」  突然、藤堂が立ち上がった。 「足りないからよく解らない事が多いけど、人が嫌がる事とか傷つけるような事はしないよ」  良く知っているような言い方で、心がザワザワと騒いだ。  藤堂は、塚本と前から知り合いでオレなんかよりもよっぽど親しいけど、それがこんなに妬ましく思えたのは初めてだ。  知り合って二ヶ月程度のオレとは違う。 「何か嫌なコト言われた?」  どうして、藤堂にそんなことが分るんだろ。  塚本と仲が良いから?  それとも、オレが分かり易いから?  顔に出ちゃっているのかな。  自分の頬に触れてみてもそんなのは分らない。  鏡を見ても、きっと自分じゃ分らないと思う。 「嫌なコトと言えば、嫌なコト言われたかも」  なんか落ち着かなくなって、椅子ではなく机に座った。 「でもオレが勝手にそう思っただけで、塚本は全然悪くないから」  嘘じゃない。  オレが勝手に期待して、勝手に落ち込んでいるだけ。

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