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第21話 なんとか進展はしたようで -2
「それならよかった。何言ったか知らないけど、マサくんのこと嫌わないでやってよね」
そう言って笑う藤堂を見て、オレの心が冷たくなった。
は?
何、それ。
笑って「嫌わないよー」なんて言えなかった。
「何で藤堂がそれを言うの?」
「え?」
「何で藤堂が、オレにそれを言うんだよ」
戸惑った藤堂の表情が苛立ちを煽った。
「藤堂にそんな事言われる筋合いなんてないだろ。塚本と親しいのをオレに見せつけるなよ!」
友達に怒鳴ったのなんて初めてかもしれない。
それでも全然言い足りない。
だって塚本に振られたばかりなんだぞ。
そんなオレに、藤堂は「こんなに塚本の事分っています」みたいな言い方するから。
全然気にしない、とか思っていてもやっぱダメ。
藤堂の前にいるオレはずっげぇ惨めだ。
「オレが塚本の事、嫌いになる訳なんてないだろ!」
一度「好き」だと思ってしまったら、そう簡単には「嫌い」になんてなれない。
どのくらい塚本の事好きなのかも分らないのに、ちょっとやそっとの事で嫌いになんてなれるかっ。
本気で好きになる前にすっぱり諦めてやる、って思ってるよ。
でもそんな簡単にはいかない。
どうせオレは天邪鬼だよ。
「好きになるな」って思えば思う程、好きになるような厄介な奴なんだよ。
この気持ちにケリをつけるには、まだ時間が必要なんだって。
藤堂は悪くない。
けど、今は塚本の事を親しげに語らないでくれ。
哀しいとか、嫉ましいとか、思えば思うほど好きだったんだって気づいてしまうから。
オレが理不尽に怒鳴りつけても、藤堂は一瞬顔を顰めただけで何も言い返してはこなかった。
「えっ? ああ……うん……そう、だったんだ……?」
その代わり、困惑した表情で何かを納得したようだった。
なんかよく分らないけど、それから藤堂はカリカリと頭を掻いて何やら独り言を呟いている。
何だ?
「ごめん。それは知らなかった」
「それって、どれ?」
照れ気味に謝られても、何に対してなのか全然分らない。
でも、なんか嫌な予感はする。
「うん」
頷いただけじゃ答えになってないぞ、藤堂。
「余計な事言ってごめん、て事。瀬口がマサくんの事を好きなの知らなかったから」
「は!? それ全然違……っ!」
不自然なくらい動揺してしまった。
違わないけど、違う。
好きだけど、もう諦めるから。
諦めることにした途端に藤堂にバレるなんて、タイミング悪すぎ。
「違うの?」
残念そうに言われて、ちょっとたじろいでしまった。
そんな風に聞くなよ。
揺らいじゃうだろ、心が。
「好き、だったみたいだけど、もう振られたから」
あ。
振られたっていうのを口にしたのは初めてだけど、結構辛いかも。
悲しさ倍増だな。
「でもさ、それって当然だよな。いくら塚本が来る者拒まずだからってオレ男だし。つーか、藤堂もこんな話気持ち悪くねぇ? オレも自分でヤバいって思ったし」
笑っても空笑いしかできない。
でも泣くよりはマシだよな。
藤堂も笑い飛ばしてくれればいいのに、妙に神妙な表情でこっちを見ている。
「別に気持ち悪くはないけど、なんか腑に落ちない」
「何が?」
「なんか」
はっきりしない。
オレにはそっちの方が気になるよ。
「て言うか、有りえない。マサくんが瀬口を振るなんて信じられない」
力一杯に言われても…。
信じられないって言っても、本当のことだし。
「何か誤解してるんじゃない?」
「誤解?」
「オレの同居人もね、マサくん程じゃないけど言葉の足りないヤツでさ」
溜め息混じりに藤堂が言い出した。
同居人?
前に弓月さんの家にお世話になっているって言ってなかったっけ?
それが記憶違いじゃなかったら、それって弓月さんの事なんじゃ…。
「自分の中で色々考えていること飛ばして結論だけを言うんだよ。で、こっちが解らないと『何で解らないんだよ』って逆ギレするし、すっごい迷惑」
話しているうちに、段々と藤堂の表情が険しくなっていく。
もしかして、それが喧嘩の原因だったりして。
「そいつの場合は、こっちが解らないと解るまで言ってくるけど、マサくんは『解らないなら別にいいや』って考えてるから、もしかしたら瀬口は何か誤解をしているかもしれない」
そうやって、また塚本を語るんだな。
どうせオレは塚本のことなんて全然知らないよ。
「でも『無理』って言われたぞ」
「何に対して『無理』?」
「『誕生日に何が欲しい?』って聞かれたから『塚本』って言ったら『無理』って……」
自分でも身の凍るような恐ろしい要求を正直に白状したら、藤堂が勝ち誇ったようにニヤリと笑った。
「なぁーんだ、そんなの振られたうちに入らないって」
当人を無視して軽く言われた。
しかも明るく。
他人事だと思って……。
「でも、『無理』だぞ。『付き合うのは無理』ってことだろ?」
「はっきり言われた訳でもないのに簡単に諦めるな!」
ガシッ、と肩を掴まれ、何でそこまでってくらい熱く励まされた。
但し、すっげぇ楽しそうに。
「よし、行こう」
へ?
オレの腕を掴んだ藤堂は、唐突に訳の解らない誘いをした。
「どこに?」
当然の質問をしたが、藤堂に答える気はないようだ。
強引に引きずられそうになったから慌てて鞄を掴んだ。
藤堂は予想以上の力でオレをぐいぐいと引っ張る。
顔に似合わず力強い。
「着いてからのお楽しみ」
果たして本当にお楽しみがあるのか分からないまま、オレは藤堂に引きずられて学校を後にすることになってしまった。
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