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第22話 なんとか進展はしたようで -3
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藤堂に連れて来られたのは、電車で一駅先に行った所にある大きな家だった。
立派な門構えに気後れしてしまう。
「藤堂の家?」
一番可能性のある予想をしてみた。
けど、藤堂は弓月さんにお世話になっているって言っていたから、もしかしたら弓月さんの家なのかもしれない。
「はずれ。マサくんの家です」
表札を指しながら藤堂が笑って言った。
促されて、「塚本」と書かれた達筆な文字を見た瞬間、頭が真っ白になった。
「何で!?」
「もう帰ってるかな、と思ったから」
「そうじゃなくって、何でオレが塚本の家に来なきゃならないのかって聞いてるんだ!」
人の家の前だってことも忘れて大声で叫んでしまった。
今、塚本に会うのは勘弁してもらいたい。
「あれ?」
会いたくないって思った途端に本人が現れてしまった。
門の向こうからじゃなく、オレ達の来た方向から。
まだ制服だし、今帰ってきたところなのかもしれない。
「……塚本」
隠れようにも道中じゃ隠れる隙間もない。
穴を掘ってでも逃げ込む場所を作りたいくらいだ。
「二人して、どうしたの?」
同級生二人が自分の家の前で騒いでいたら、塚本のそんな質問も当然すぎる。
むしろ控え目なくらいだ。
「話があるんだって、瀬口が」
おい!
誰がいつ塚本と話しをしたいと言った!?
人の背中を押して笑顔でいい加減な事を言うな、藤堂!
「瀬口?」
話なんて無いから、こっちを見ないでくれ。
ちらりと塚本を見ると、いつもと変わらない表情でこちらを見ている。
オレだけあたふたとしてバカみたいだ。
「じゃ、オレ帰るから」
「は?」
本当に帰ろうとする藤堂を慌てて掴み止めた。
オレを置いて、自分だけ帰ろうとする雰囲気だったから。
「お前、人を強引に引っ張ってきてすぐ帰るってどういう了見だよ!」
「オレはマサくん家までのナビをしただけ。最初からすぐに帰るつもりだったよ」
聞いてねぇよ。
塚本の家に来る事も、オレが塚本に話があるって事も、藤堂がすぐに帰るつもりだった事も、全部初耳だって。
「彼織ちゃんは、帰るの?」
「うん。オレはほら、関係ない部外者だから」
「勝手に話を進めて関係ないはないだろっ!」
藤堂を掴む手に一層力を込めた。
オレにはまだ、塚本と二人きりになる心の準備ができてないんだよ。
「マサくんが丁度帰って来たところで良かった。瀬口を引き渡すから、仲良くね」
藤堂はオレを思いっきり無視して、制服を掴むオレの手をやんわりと除けた。
「ちょっと待てよ、藤堂!」
引き止めるオレを置いて、藤堂は本当に帰りやがった。
藤堂の後を追おうとしたら、門戸を開ける音が聞こえた。
「話、あるんだって?」
戸を半分開けて塚本が言った。
だから、話なんて無いんだって。
あれは藤堂が勝手に言い出した事なんだよ。
でもそういうのは全く言葉に出せなくて、そんな言い訳よりも、オレの興味は目の前にある塚本の家に方にあったりした。
今オレが考えているのは、この場をどうやって乗り切るかじゃなくて、塚本の家は何をしている家なのかとか、これだけ大きな家なら塚本の部屋も広いんだろーな、とかそんなどうでもいいことばかりだ。
あー……オレってバカ。
諦めるとか言い聞かせておきながら、塚本の事もっと知りたいんだ。
だから、犬猫呼ぶみたいに
「おいで」
って言われても、それが塚本なら後付いてっちゃうんだよ。
本当単純だよな、オレ。
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