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第26話 余計な所から問題定義-3

 ゴン、という鈍い音が頭に響いた。  学食を出て直ぐの所に設置されている自販機に正面から凭れたら、勢い余って頭をぶつけてしまった。  痛いけど、そのまま目を瞑って大きく息を吐いた。  ドクドクと脈打つ心臓の所為で、一気に体温が上がっている。  落ち着いて考えよう。  オレと塚本は付き合っていたのか?  イヤ、そんな事はないだろ。  だってオレにそんな自覚ないし。  塚本にもそういう素振りは見えな…。  ……あ。  なんか…今、ちょっと思い当たる節が……。   「そうしていると頭冷えるの?」  自販機に頭を付けたままでいるオレに声を掛けてきたのは、学食で注目の的だった瞳子さんだった。  校内で見るセーラー服にはやっぱり慣れなくて、分っていても目の錯覚かと疑ってしまう。  それに、瞳子さんは皆と学食の中にいると思っていたから、こんな所に来るとは思ってなかったし。  オレは慌てて、自販機から瞳子さんの方へ向き直した。 「ちょっと考え事をしていたんで」  言ってから、自分の間抜けさに気づいた。  自販機に向かって考え事、って傍から見たら不気味すぎる。  瞳子さんもそう思ったらしく、クスクスと笑っている。 「私のこと、誰かから聞いてる?」  自販機に寄りかかりながら瞳子さんが聞いてきた。  生徒は殆ど帰ってしまって自販機を使う人はいないだろうからいいけど、普段だったら結構邪魔だ。  オレも人のこと言えないけどな。 「聞くって、何を?」  瞳子さんを知ったのはさっきが初めてで、噂でも聞いたことはなかった。  そんなに有名な人なのかな? 「例えば、誠人の元カノとか」  ピシッ、とどこかに亀裂が入った音がした。  誠人というのが塚本の名前だという事くらい、オレだって知っている。  ただ、瞳子さんのような可愛い女の子に呼ばれていると、胸の奥がモヤモヤする。  こんな、嫉妬っぽいの初めてだ。  イヤ、そんな事より、塚本の元カノ!?  そういう人がいてもおかしくは無いけど、実際に目の前に現れてしまうとどうしていいか分らなくなる。  こんな可愛い子が元カノとは。 「彼女だったんですか? 塚本の」  動揺を抑え込みながら訊く。 「そーよ。二ヶ月くらいだけどね。でも誠人にしては長く持った方なんじゃないかな」  二ヶ月で長い方か。 「聞いた話だと、最短で四日っていうのもあるらしいから」 「四日!?」  それは「付き合う」というのか?  そんなに早く別れるなら、最初から付き合わなければいいのに。 「誠人ってさ、何か変じゃない?」  瞳子さんが少し声を潜めて言った。 「……ですね」  話が微妙に変わって反応が遅れてしまったけど、その意見には賛成だ。  具体例が上げられる訳じゃないけど、世間一般と比べて僅かなズレを感じる。 「でしょ? こっちから動かないと何もしてこないなんて有りえる? 普通、こんな可愛い彼女がいたら遠慮なく押し倒すのが筋でしょ」  オレが同意すると瞳子さんの勢いは増し、潜めた筈の声はその前よりもやや大きくなっていた。  でも、今言葉には素直に賛同してはいけない気がする。  どんな筋だよ。 「なのに全然私に構ってくれないし。だからね、ちょっと試してみたのよ。『他に好きな人ができたから別れて』って」  オレの反応など関係なく、瞳子さんは語り続けた。 「そうしたら、誠人どうしたと思う?」 「……さぁ?」 「あっさり『分った』だって」  そう言った瞳子さんの表情は、呆れとも怒りとも取れるものだった。  瞳子さんには悪いけど、なんか塚本っぽいなぁ、それ。 「普通なら、『どこのどいつだ、ここに連れてきやがれ!』とか言って怒るなり、『それでも構わないから別れないでくれ』とか言って土下座してでも引き止めるべきでしょ?」  そーなのかなぁ。  ちょっと極端だけど、それに近い事はあるのかもな。  でも、塚本っぽくはないよな。 「それを、あいつは『分った』の一言で済すんだよ? 怒りも引き止めもしないなんて信じられない。でもほら、それって突然でびっくりしてそれしか言えなかったのかな、って思って、その後何日か待ったんだけど全っ然音沙汰なし。痺れ切らしてこっちから会いに行ったら、『何か用?』だって」  瞳子さんは捲くし立てるように一気に言って、最後にダンッ! と自販機を叩いた。  びっくりしたぁ。  間違って小銭が落ちてきそうな振動と音で、オレの肩も大きく上下してしまった。 「頭きたから、冗談のつもりだったけどそのまま別れたわよ」  吐き捨てるように言って、瞳子さんはこっちを見た。  何か言われそうな予感。 「誠人と付き合ってるんだって?」  脈絡なく直球がきてしまった。  瞳子さんが過去の話をしていたので、すっかり油断していた。  こんなに唐突に話が戻ってくるなんて。  そして、その質問は非常に困る。

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