27 / 226
第27話 余計な所から問題定義-4
まだドキドキする胸を掴む代わりに制服を掴んで、少しでも落ち着こうと努力した。
「あの、今ちょっと考えていたんですけど、なんか誤解っぽいんですよ、それ」
まだ確信は持てないけど、多分間違ってない仮説。
と言うか、それしか思い当たらない。
「誤解?」
オレがしどろもどろに言うと、瞳子さんは興味を持ったらしく身を乗り出してきた。
興味津々だ。
そんな大した話でもないんだけど、なんか言わなきゃいけない雰囲気。
「ちょっと前に、塚本がオレの誕生日に何かくれるって言ったんで『塚本』って言ったんですよ。多分その所為です」
思い当たるのはこれだけだ。
その場では「冗談」で済ましたけど、その後に本心だってバレた上にキスして更に返されたし。
あの時の「大丈夫?」ってそういう意味だったんだよな、きっと。
はぁ、と溜息が漏れる。
そういう事はちゃんと言ってくれよ、塚本。
オレは、てっきりうやむやに流されたとばっかり思っていたよ。
「実を言うと、塚本がそんな風に考えていた事を知ったのもさっきなんですよ」
自分で言っていて情けなくなってくる。
「誕生日のプレゼント!?」
オレの言葉を理解した瞳子さんが甲高い声を上げて驚いた。
一言で言えばそうなるかも。
でも、面と向かって言われると抵抗あるなぁ。
改めて、オレは何てことを口走ってしまったんだ。
「君、結構大胆なんだね」
感心しきったような瞳子さんの言い方が気になるけど、自分でもそう思うから否定はできない。
「でもオレとしては、まさか本気にするとは思わなくて……」
「わっかるなー、それ」
オレの言葉を遮って瞳子さんが口を開いた。
「誠人に冗談は通じないからね」
妙に実感が篭っている。
ああ、そうか。
瞳子さんは、試すつもりで『別れる』って言ったのを本気にされたんだっけ。
可哀想に……。
「だったら、別にいいよね?」
やけに陽気な声で瞳子さんが切り出した。
オレは何のことだか分からなくて、首を傾げるしかできなかった。
「だって、付き合うのは予想外で、その上さっきまで知らなかったんでしょ? 意味無いよね、そういう関係」
確かに予想外だったし知らなかったけど、無意味だとは思えない。
不意打ちくらって動揺しまくったけど、頭が冷えてくれば単純に嬉しいし。
何でこの人にそんな事を言われなくちゃいけないんだ?
「別れてよ、誠人と」
見惚れてしまうくらい、綺麗な笑みを浮かべた瞳子さんがさらりと言い放った。
「え?」
「付き合っている」という実感も無いというのに、「別れてくれ」と言われてもリアクションに困ってしまう。
「誠人ってさ、浮気とかしないけど、『付き合って』って言えば付き合ってくれるような奴なのよ。だからね、君と付き合っているのも君の事が好きだからじゃないのよね、きっと。それに、君に付き合っている自覚は無いんだったら、別れても問題ないでしょ」
グサリ、と瞳子さんの流れるような言葉が刺さった。
そっか。
単純に嬉しがっている場合じゃなかった。
塚本は、オレの事が特別好きな訳じゃないんだった。
オレが望んだからくれただけなんだ。
落ち込むなぁ。
元カノが現れた後に突き付けられると、本当に落ち込む。
その上「別れて」なんて言われるし。
「なんで、そんな事言うんですか」
かなり酷い事を言われているんだから、オレがここで怒っても別に構わないと思う。
けれど、生憎そんな気力が無い。
せいぜい「あなたには関係ないでしょ」的ニュアンスを含ませた事を言うくらい。
でも瞳子さんは全然怯まなかった。
「誠人と君が別れたら、また誠人と付き合おうと思っているから」
笑いながら、本当に軽く言われた。
オレが呆然とするには十分な理由だと思う。
自分勝手すぎ。
「だって、塚本と瞳子さんは……」
「私は別に誠人が嫌いで別れた訳じゃないのよ。ただ頭にきただけ」
「…つまり、まだ塚本のことが好きって事ですか?」
「そうだね」
良く出来ました、と言わんばかりの笑みだった。
正解しても嬉しくない。
全っ然嬉しくないぞ。
「誠人にとって、誰かと付き合うっていうのは大した問題じゃないのよね。相手が君でも私でも同じなのよ。そこでね、男の君と女の私を比べてみたら、私の方が都合がいいと思わない? イロイロと」
ちらり、とこっちを見て瞳子さんが言った。
心なしか見下されている気もする。
けど、何も言い返せない。
オレもそう思ってしまったから。
男のオレと、可愛い女の子の瞳子さんでは、最初から勝負になんてならない。
でも、オレの中にある僅かな対抗心が燻って、「負けたくない」なんて思っている。
「それは、塚本が決めることですから」
燻った程度の対抗心じゃ、それだけ言うのが精一杯だった。
ともだちにシェアしよう!