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第27話 余計な所から問題定義-4

 まだドキドキする胸を掴む代わりに制服を掴んで、少しでも落ち着こうと努力した。 「あの、今ちょっと考えていたんですけど、なんか誤解っぽいんですよ、それ」  まだ確信は持てないけど、多分間違ってない仮説。  と言うか、それしか思い当たらない。 「誤解?」  オレがしどろもどろに言うと、瞳子さんは興味を持ったらしく身を乗り出してきた。  興味津々だ。  そんな大した話でもないんだけど、なんか言わなきゃいけない雰囲気。 「ちょっと前に、塚本がオレの誕生日に何かくれるって言ったんで『塚本』って言ったんですよ。多分その所為です」  思い当たるのはこれだけだ。  その場では「冗談」で済ましたけど、その後に本心だってバレた上にキスして更に返されたし。  あの時の「大丈夫?」ってそういう意味だったんだよな、きっと。  はぁ、と溜息が漏れる。  そういう事はちゃんと言ってくれよ、塚本。  オレは、てっきりうやむやに流されたとばっかり思っていたよ。 「実を言うと、塚本がそんな風に考えていた事を知ったのもさっきなんですよ」  自分で言っていて情けなくなってくる。 「誕生日のプレゼント!?」  オレの言葉を理解した瞳子さんが甲高い声を上げて驚いた。  一言で言えばそうなるかも。  でも、面と向かって言われると抵抗あるなぁ。  改めて、オレは何てことを口走ってしまったんだ。 「君、結構大胆なんだね」  感心しきったような瞳子さんの言い方が気になるけど、自分でもそう思うから否定はできない。 「でもオレとしては、まさか本気にするとは思わなくて……」 「わっかるなー、それ」  オレの言葉を遮って瞳子さんが口を開いた。 「誠人に冗談は通じないからね」  妙に実感が篭っている。  ああ、そうか。  瞳子さんは、試すつもりで『別れる』って言ったのを本気にされたんだっけ。  可哀想に……。 「だったら、別にいいよね?」  やけに陽気な声で瞳子さんが切り出した。  オレは何のことだか分からなくて、首を傾げるしかできなかった。 「だって、付き合うのは予想外で、その上さっきまで知らなかったんでしょ? 意味無いよね、そういう関係」  確かに予想外だったし知らなかったけど、無意味だとは思えない。  不意打ちくらって動揺しまくったけど、頭が冷えてくれば単純に嬉しいし。  何でこの人にそんな事を言われなくちゃいけないんだ? 「別れてよ、誠人と」  見惚れてしまうくらい、綺麗な笑みを浮かべた瞳子さんがさらりと言い放った。 「え?」  「付き合っている」という実感も無いというのに、「別れてくれ」と言われてもリアクションに困ってしまう。 「誠人ってさ、浮気とかしないけど、『付き合って』って言えば付き合ってくれるような奴なのよ。だからね、君と付き合っているのも君の事が好きだからじゃないのよね、きっと。それに、君に付き合っている自覚は無いんだったら、別れても問題ないでしょ」  グサリ、と瞳子さんの流れるような言葉が刺さった。  そっか。  単純に嬉しがっている場合じゃなかった。  塚本は、オレの事が特別好きな訳じゃないんだった。  オレが望んだからくれただけなんだ。  落ち込むなぁ。  元カノが現れた後に突き付けられると、本当に落ち込む。  その上「別れて」なんて言われるし。 「なんで、そんな事言うんですか」  かなり酷い事を言われているんだから、オレがここで怒っても別に構わないと思う。  けれど、生憎そんな気力が無い。  せいぜい「あなたには関係ないでしょ」的ニュアンスを含ませた事を言うくらい。  でも瞳子さんは全然怯まなかった。 「誠人と君が別れたら、また誠人と付き合おうと思っているから」  笑いながら、本当に軽く言われた。  オレが呆然とするには十分な理由だと思う。  自分勝手すぎ。 「だって、塚本と瞳子さんは……」 「私は別に誠人が嫌いで別れた訳じゃないのよ。ただ頭にきただけ」 「…つまり、まだ塚本のことが好きって事ですか?」 「そうだね」  良く出来ました、と言わんばかりの笑みだった。  正解しても嬉しくない。  全っ然嬉しくないぞ。 「誠人にとって、誰かと付き合うっていうのは大した問題じゃないのよね。相手が君でも私でも同じなのよ。そこでね、男の君と女の私を比べてみたら、私の方が都合がいいと思わない? イロイロと」  ちらり、とこっちを見て瞳子さんが言った。  心なしか見下されている気もする。  けど、何も言い返せない。  オレもそう思ってしまったから。  男のオレと、可愛い女の子の瞳子さんでは、最初から勝負になんてならない。  でも、オレの中にある僅かな対抗心が燻って、「負けたくない」なんて思っている。 「それは、塚本が決めることですから」  燻った程度の対抗心じゃ、それだけ言うのが精一杯だった。

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