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第28話 唐突な意思表示-1
瞳子さんと食堂に戻ってから、オレは塚本を誘って帰ることにした。
帰り際に瞳子さんと目が合ったら、「ヨロシク」と言うように微笑いかけられた。
別に、瞳子さんに言われたからじゃない。
塚本がどんなつもりでいるのか、塚本の口からはっきりと聞きたかったから。
だから、一刻も早く塚本と話がしたかった。
食堂を出て二人きりになって「話したいことがある」と言ったら、塚本はいつもと変わらない調子で「分った」と頷いた。
それから、どこか座る場所を探そうとしているようだった。
オレが気負っているのに、全く気づいてないようだ。
「凄く大事な話なんだけど」
「つまり?」
「つまり、落ち着ける場所で話がしたい」
ちょっと苛立ち気味にオレが言うと、塚本は少し考えるように目を伏せた。
「じゃ、ウチ来るか?」
そんな聞き方されたら断る訳ないだろ。
喜んで招かれるっつーの。
こんな時でも、家に呼ばれるのが嬉しいなんてバカだよな。
□ □ □
そして、二度目の塚本家お宅訪問。
前もそうだったけど、精神的に不安定な時ばかり来ている気がする。
普通の状態の時に、落ち着いて来てみたいよな。
この前と同じ所に座って、軽く息を吐いた。
否応にも、キスした時のことが思い出されて、顔が紅潮していくのが分る。
気が散っている。
今、オレが考えなきゃいけないのはそんな事じゃなくて、塚本は一体何を考えているのかという事だ。
それと、瞳子さんに言われた事も。
「話っていうのは、俺と瀬口が付き合ってるって言った事?」
どうやって切り出そうかと考えていたら、塚本が先に話を振ってきた。
図星すぎて言葉に詰まってしまった。
今日は直球ばっかり受けているな。
「それ、本気で言ってんの?」
まずは探りを入れてみる。
塚本の反応を見ようと思ったのに無反応だよ、オイ。
「オレ、塚本と付き合ってるって、今日初めて知ったんだけど」
「でも俺は、瀬口のもののつもりだったぞ」
しれっとした顔でとんでもない事を言われて、思考が止まってしまった。
お前、オレのものだったのか!?
「それって、前に言った誕生日のやつ?」
「他にある?」
塚本は不思議そうに即答した。
複雑だ。
素直に喜べない。
だって、やっぱり塚本はオレの事が好きなのではなく、オレが「欲しい」って言ったからくれただけなんだから。
そんな程度ならいらないよ。
「どうした?」
俯いたオレを塚本が覗き込んできた。
オレがこんなに落ち込んでいるのはお前の所為なんだよ、塚本。
原因のお前が、そんな風に心配しないでくれ。
「瞳子に何か言われた?」
心配、してくれるのは嬉しいんだけど。
本当にどうでもいい事で、ちょっと考えれば当たり前の事なんだけどさ、塚本も瞳子さんの事を呼び捨てなんだな。
「瀬口」
優しい声音と共に、髪を撫でるように頭に置かれた塚本の手を、瞬間的に振り払っていた。
「オレのことなんか好きじゃないくせに、中途半端なことすんなよ」
本当は誰でもいいくせに。
今は、たまたまオレがあんな事言ったら、深く考えないでオレに付き合ってくれているだけで、本当は誰でも構わないんだろ。
オレは、塚本じゃなきゃ嫌なのに。
「この前は変なこと言って悪かったよ。あんなのもう忘れていい。オレは、塚本をこんな風に欲しかった訳じゃないから、だから…」
そう言っている最中、ずっと頭の片隅に瞳子さんがいた。
これでオレが振られたら、そしたら塚本は瞳子さんとまた付き合うのだろうか?
本当に「誰でもいい」なら、「告白されたら断らない」なら、きっと付き合うんだろうな。
オレは、瞳子さんに感謝されたりするのかな。
でも、これは瞳子さんの為じゃないぞ。
好きでもない人間と付き合うなんて、ましてその相手がオレだなんて、塚本が気の毒だろ。
だからいいんだよ。
例え自己主張の希薄な塚本が一番悪い、って思っていてもな。
「オレの事はもう考えなくていいから、塚本のしたい様にしていいよ」
これを言ったら、もう終わりだと思った。
でも、好きな相手に「誰でもいい」って思われながら付き合ってもらうのを楽しめる程、オレの神経は図太くないんだよ。
「…分った」
少しの間の後、塚本は実にあっさりと頷いた。
こっちが傷つくくらい、あっさりと。
やはり、オレといるのは塚本の本意ではないと事だ。
酷いよな。
オレをこれだけ傷つけといて、お前はこれからどうするんだ?
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