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第36話 危機は再びやってくる -3

「屋上って、夏は向かないなぁ」  日陰にぐったりと座り込んで、率直な感想を言った。  九月と言っても日中はまだまだ暑くて、何もしていなくても汗は出るし体力が奪われていく。  暑くて何もしたくない。  冷房のきいている教室から、何もわざわざ暑い屋上に出てこなくても、と思うけど、ここにいると落ち着くのは事実だ。 「暑…………溶けそう」  オレの隣で、丘に打ち上げられた某哺乳類のようになっているのは、当然の如く塚本だ。  本当に溶けてしまいそうで恐い。  三限目が終わってすぐに居なくなって、それからずっと屋上にいたらしい。  オレは昼休みになってから来たから、少なくとも塚本よりはこの暑さにあてられてない。  こんな溶けそうになってまでして、どうして屋上に拘るのかな?  捜すのに手間がかからなくて良いけど、命に関わる可能性も考えてもらわないとな。  第一発見者とか、本当に嫌だ。  でも、オレも何で塚本を捜すのかなぁ。  と言うか、学校来ているならちゃんと授業出ろよ。  サボるにしても、せめて昼休みになったら戻って来いよ。  だから捜したくなるんじゃないか。 「教室、涼しかったぞ」 「ん。でも、ここのが楽」 「溶けそうなのに?」 「……溶けそうで、楽」  意味が解らない。  脳みそまで溶けているんだな、きっと。  横たわったままこっちを見て、ぼんやりと塚本が言う。 「瀬口、暑そう」 「暑いよ」  即答してやった。  この状況で暑くないと言えるような鍛錬は積んでない。  言葉に覇気が無いのは、暑くてうだっているから。  でも、オレより塚本の方が暑そうなんだけどな。 「じゃ、降りようか」  塚本はおもむろに上体を起こした。  オレを気づかって、と言うより、自分が辛くなったっぽいな。 「そだな。早く飯食わないと授業始まっちゃうし」 「それは、それで、良し」 「良くねぇよ」  塚本のことだから、本気でそう思っていそうだ。 「ちゃんと学校来てる時くらいは授業出ろって」  マシになったとは言え、遅刻欠席の多い塚本がせっかく学校に来ているのに、欠席なんて勿体無い。  こんな奴でも、試験の順位は良いんだから世の中不思議だ。  つーか、不公平だ。  必死に試験勉強しなくても記憶力だけで勝負できるなんて、若干の殺意すら覚える。  こいつが本気で試験に臨んだら、どれだけ順位が上がるんだろうか。  不貞腐れたように言ったら、塚本が薄く笑った。 「真面目だな、瀬口は」  塚本が不真面目過ぎるんだよ。 「どーせ、今日も学校終わったらここで寝るんだろ?」 「そのつもり」  家に帰ってから寝ろよ、という言葉を飲み込んで、軽く息を吐いた。  だったら、授業中くらい教室にいてくれよ。  せっかく同じクラスなんだからさ。

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