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第49話 生徒会室にて -2【大橋】
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生徒会室の扉を勢いよく閉めてやって、どこに行こうかと歩き出した矢先に、前方によく見知った顔を見つけた。
俺と同じ二年で生徒会役員の西原佑斗 。
中等部からの友人だ。
「今、宮津さんが来てるんだ」
生徒会室に向かう西原を引き止めて、生徒会室の状況を簡潔に説明した。
「それは入りづらいな」
「だろ。しばらくはそっとしとこう。お前も休憩行って来ていいぞ」
と、珍しく気遣いを見せてやったというのに、西原の表情はあまり明るくならない。
「今行ってきたところだ」
西原は顔色一つ変えずに、そうのたまいやがった。
俺が怒ってやったのは言うまでも無い。
「なんだと! それじゃ、真面目に仕事してたのは俺だけかよっ」
あのバカップル耐えながらカリカリと机に向かっていた俺は、とんだ大真面目さんじゃねぇか。
「彼女に振られたばかりだからって、他人に当るのは見っとも無いぞ」
淡々と嫌なトコ付いてきやがって。
しかも、切り返し方が会長と同じ。
「お前までんな事言うのかっ!」
「俺まで? さては会長にも言われたな」
フッ、と笑って勘のいいことを言う。
……お前か。
会長に俺が昨日振られたのをバラしたのはお前か、西原。
まぁいいけど。
いつかはバレることだろうし。
それにしても……。
「好きだって言ってたのになぁ」
溜め息と一緒に愚痴が出る。
昨日まで俺の彼女だった女の子。
交際期間四ヶ月っていうのが長いのか短いのかよく分らないが、その前の彼女とは一年くらい続いていたから、やっぱり短い方なんだろうか。
それだって、他の奴らに比べれば長いとは言えないだろうな。
「お前の場合は、外見が良すぎるんだよ。中身がそれに伴っていない。だから、相手はそのギャップに耐えられなくなって……」
「お前の口は、どうしてそうも悪いかなぁ」
それ以上は言われたくなくて、西原の頬をつまんでやった。
西原は、透かさず鬱陶しそうに俺の手を払う。
「本当の事だろ」
「だから腹が立つ」
嘘を並べられるのも嫌いだが、こういう時に本当の事ばかり突付かれるのも癪に障る。
暖かく包んで欲しいとまでは言わないが、せめて人の痛みの分る子を所望したい。
「だったら、『好き』と言われたからといって気軽に付き合うな」
それだけじゃねぇよ。
「可愛かったんだ」
「馬鹿」
本当に、俺ってバカ。
ちょっと可愛いコに「好き」って言われて浮かれて付き合って、今は虚無感しか残ってない。
何なんだったろうな、あの時間は。
「向いてないのかなぁ」
一人心地で呟いていた。
人を好きになったり、付き合ったり。
なんか疲れるんだよな。
「もういいや」
いつまでも別れた女のことなんて考えてても仕方無い。
あの子とは、それだけの縁しかなかったのだろう。
「もう、俺を好きっていう子とは付き合わない。俺が自分から好きになった子以外は振る」
それが一番いい。
自分が好きな子とだったら、きっと毎日が楽しくて疲れるなんてことないのだろうから。
「それでもいいけどな、お前が好きになった子もお前を好きだとは限らないんだぞ」
安易な思いつきの弱点を、西原が馬鹿にしたように指摘する。
痛い所を突かれてしまった。
けど、それは大した問題ではないだろう。
大抵の場合はそうなんだから。
「努力すればいいんだろ?」
「せいぜい頑張れ」
「おう」
投げやりな西原の激励に、更に投げやりに答えた。
「ああ、でも」
ふと、思い出したように西原が呟いた。
「お前、誰かを好きになれるのか?」
盲点だった。
言われてみれば、俺は今まで自分から誰かを好きになった事なんてあったっけ?
なんか、不安になってきたな。
「努力……?」
「そういう問題じゃないだろ」
呆れ果てたように言い捨てた西原が踵を返す。
俺も慌ててそれに続いて歩き出した。
確かに、人は努力で好きになるようなものじゃないよな。
じゃあ、きっかけって何なんだろう。
俺は、どんな時にどんな人を好きになるんだろうか。
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