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第51話 何番目? -2
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体育館に戻ったオレは、端でぼんやりと座っている塚本の所へ向かった。
いつもなら、オレの帰りを待って屋上で暇を潰しているんだけど、「どうせ寝てるなら手伝ってくれ」と言ったら二つ返事で来てくれた。
塚本はこういう面倒な事は苦手そうなのに、実行委員でもないのに来てくれるとは。
かなり意外だったけど、それ以上に嬉しい。
実行委員なんて面倒だけど、やる気のない塚本にツッコミをいれつつ一緒にする作業は楽しい。
手伝ってくれるって言っても、塚本だし。
無理しない程度だけど。
少し目を離すと、邪魔にならない所で休憩中なのは大体予想していた。
期待を裏切らない奴だなぁ、と苦笑したオレを見上げた塚本が、何かに気付いたように口を開く。
「何かあった?」
ぼーっとしているくせに、こういう所は鋭い。
塚本は、オレのちょっとした変化に気付くのが上手い。
それはつまり、ツボを押えるのも上手いって事だ。
いきなり訊かれて返答に困る。
別に。
と言える程、時間は経ってなかった。
「吉岡さんって知ってる?」
「……吉岡」
少し考えるように塚本が呟く。
「うん。今、二年生だから、去年は塚本と同級生だっだろ?」
と訊いても、塚本に反応は無し。
「憶えてない?」
「いや、憶えてるよ」
学年全員の顔と名前を憶える必要もないし、塚本ならきっとぼーっとしているから知らなくても仕方無いかな、と思ったら、意外にも憶えていたらしい。
もしかしたら、クラスが一緒だったのかな?
それなら、塚本が憶えていても不思議じゃない。
「吉岡が、どうかした?」
言葉を選んで答えようと思ったけど、選ぼうにもそんなに選択肢は多くなかった。
こういう事って、なんとなく言いにくいんだよな。
「……嫌われてるっぽい」
塚本の隣りに座って、少し小さな声で言った。
「ぽい」
不確定な言い方だったからか、どうでもいい所を復唱された。
面と向かって言われた訳じゃないんだから、仕方ないだろ。
「分らないけど、なんとなく」
言ってから、やっぱ言わなきゃよかったと後悔した。
「なんとなく」な次元じゃないと確信しているけど、その程度のことだったから。
「何で?」
「だから分らないんだって。最初っから、一方的に、ずっと」
自分でもどうしてなのかなんて分らないのに、人に説明できる訳がない。
それに、誰かを好きになるのと同じで、嫌うのにも理由なんて無いのかもしれない。
当事者としては、多少理不尽だとは思うけど。
「困ってる?」
塚本が、覗き込むようにこちらを見て訊いてきた。
心配してくれているのかな?
「と言うか、感じ悪い」
拗ねたように言ったオレの頭を優しい手が撫でる。
単純なオレは、それだけの事で気分が浮上してしまう。
体育館には人がたくさんいて人目があるから、オレと塚本の間には触れるか触れないかの間がある。
そういうギリギリの距離って、結構嫌いじゃない。
色々なことがあっても、大雑把に「平和だなぁ」と思える。
隣に好きな人がいて、その好きな人もオレのこと好きって言ってくれて。
オレはドキドキしすぎて困っていて。
それってやっぱ平和だよな。
「うわっ!」
そんな時に、誰かの驚きのような声が聞こえた。
誰に向けられたものなのかすぐには分らなかったけど、オレが反応するには十分な音量と内容だった。
「本当にマサくんだ。一瞬幻覚かと思った」
声の主らしい生徒は三年生のようで、セリフ同様に驚いたようにこっちを見ていた。
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