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第56話 何番目? -7
□ □ □
「おーい、そこの一年生」
吉岡さんと別れてトボトボと廊下を歩いていると、どこからか大きな声がした。
「実行委員だろ? ちょっと手伝っ……」
後ろから回り込んできたその人は、オレの顔を見るなり怪訝な表情になって言葉を止めた。
ぼんやりと見上げた視界に映ったのは、三年生の綾部生徒会長だった。
「どうした?」
会長が心配そうに訊いてくる。
答えようにも、訊かれた意味が分らない。
「何がですか?」
「酷い顔してる」
言われて、オレはゆっくりと自分の額に手をあてた。
そうかな?
「委員の仕事、辛いのか?」
「いえ」
すぐに首を振って否定した。
実行委員は忙しいけど、動いてればそれだけ充実して満たされている気がする。
辛い、と口に出すほど辛くはない。
「倒れてからじゃ遅いぞ。せっかく頑張っても、当日家で寝てたんじゃ惨めだろーが」
否定したオレの言葉は、先輩に気を遣ったものと取られてしまったらしい。
今のオレに、そんな風に気を遣う余裕はないのに。
「あの、本当に委員の仕事は関係ないですから」
言いながら、原因である塚本の顔が浮かんで苦しくなった。
もし吉岡さんも塚本が好きだとして、選ぶのは塚本だ。
塚本、オレのこと好きって言ってくれているし、大丈夫だよな。
でも、オレと吉岡さんが並んでいたら、オレだったら、吉岡さんのがいいって思う。
見た目的にも、中身的にも、何を取っても勝てそうもない。
塚本の元彼女の瞳子さんに会った時にも同じことを思った。
卑屈で疑心ばかりで、自分でも嫌になる。
塚本って、本当にオレでいいのかなぁ…。
嫌なことばかり考えた所為で、益々酷い顔になってしまったのかもしれない。
覗き込んできた会長がしぶとく訊いてくる。
「じゃあ、どうした」
「何でもないです」
「……って顔してねぇから聞いてるんだ。放っておけないだろ、可愛い後輩がそんな顔してたら」
言われて、額を覆っていた手を移動させて、顔の右半分を隠そうとした。
今、オレはどんな顔をしているんだろう。
鏡が無くてよかった。
見たら、余計にショックを受けそうだ。
会長が小さく息を吐くのが分った。
せっかく心配してくれているのに、オレの態度が悪いから気を悪くしたのかもしれない。
「言いたくない事なら言わなくてもいい。ただ、その顔で校内をうろつくな。攫われるぞ」
意外にも、会長は微塵も気を悪くした風じゃなかった。
「そんなに酷いですか?」
会長の冗談めいたセリフに苦笑しながら、念を押して確かめた。
落ち込んでいる自覚はあるけど、会った瞬間に会長に心配されるほど顔に出ているとは思ってなかったから。
「酷い」
きっぱりと言われても腹が立たないのは、会長に悪意が無かったからだろう。
それと、今のオレはそんな事はどうでも良かったから。
「まともな顔ができるようになるまで、どっかに隠れてろ」
と言われてもなぁ、と思っていたオレの腕を会長が引く。
「俺も付き合う」
人の手を引きながら当然のように笑う会長を見て、サボリの口実に使われたな、と苦笑せずにはいられなかった。
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