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第60話 何番目? -11
生徒会長に連れられてきたのは、屋上に続く階段の踊り場だった。
校舎は違うけど、こういう場所には慣れているのでちょっと落ち着く。
少し話をした後、会長はやはり忙しいらしく物凄い勢いで仕事に戻って行ってしまった。
忙しいのにこんな事に時間を割いてくれるなんて、生徒会長っていい人だよな。
みんなが慕うの、分かる気がする。
一人残されて、今までのことを振り返る時間ができてしまった。
頭を過ぎるのは、嫌な事ばかり。
全部、塚本の事。
瞳子さんとのやり取りを見れば、前に付き合っていたことがあろうが関係ないって分かっている。
三番目と言っていた浅野さんもそうだった。
塚本は、別れた後でも普通に接している。
それが悪いという訳じゃない。
そりゃあ、複雑な気分になるけど、塚本はああいう奴だからそれもしょうがないかな、と納得できないことはない。
問題なのは、そういうことじゃなくて。
あいつが、オレの前にもたくさん付き合っていたという事に、今更ながらショックを受けてしまった。
だけど、ショックだったのは人数じゃない。
上手く言えない、漠然とした不安。
「オレもいつか、あいつの何番目かになるんじゃないかって……」
自分の言葉に打ちのめされてしまった。
いつの間にか流れていた涙を拭うこともできない。
ポタポタと顎から落ちる雫が、本当に自分のものなのか分からないほど涙は勝手に溢れてくる。
不安で不安で仕方ない。
今までの自分の言動を振り返って、急に怖くなった。
塚本は、オレがワガママを言ってもいつも優しい。
オレの言葉を聞いて尊重してくれる。
でも、それってどうなんだ?
オレのことなんかそんなに重要じゃないのかもしれないって。
だから、オレが何を言っても気にしないのかもって。
本当はもう、とっくにオレなんかに興味無くなっているのかもしれない。
だけど、振るのも面倒だから続けているだけだったりして。
塚本を信じてないんじゃない。
悪いのはオレの方だ。
もっとちゃんと塚本に気持ちを伝えなければ、といつも後悔しているのに、言葉にも態度にも出せないオレの所為。
塚本を不安にさせているんじゃないか、と心配して自分がそれ以上に不安になっている。
いつ振られてもおかしくない状況を自分で作ってしまった、オレがきっと一番悪い。
「瀬口」
階段の踊り場の向こうから現れた人影に素でビックリして、思わず声が上ずって大きくなる。
「ど、どうしたんだよ、こんな所に来て」
どう考えても偶然立ち寄るような場所じゃないのに。
いつも寝ている屋上はこの校舎じゃないのに。
塚本がいた。
なんでいるんだよ、と動揺してしまう。
「瀬口こそ」
安堵したように小さく息を吐いた塚本が、ゆっくりとこちらに近寄ってきた。
そっか。
準備作業の途中で、「すぐに戻る」って言ったきりなかなか戻らなかったからか。
前みたいに探しにきてくれたのかな?
「もしかして、心配してくれてた?」
「した」
「また襲われてるかもって?」
冗談っぽく訊いたのに、塚本は無言でこっちを見ているだけだった。
何だよ。
前は自分からそう言っていたのに、どうして今はちょっと深刻な表情なんだよ。
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