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第62話 何番目? -13

 何の迷いもなく即答されて、一気に冷める。  少なくとも二人は確実に見知っているオレに対して、今更何て無駄な足掻きを…。  てか、こいつバカだろ。  オイ、コラ。  誤魔化せるとでも思ってんのか? 「別に怒ってる訳じゃなくて、ちょっと気になっただけだし。そういう見え透いた嘘吐かれると、その気がなくても腹が立つぞ」  睨んでみてもやはり変化はなし。  むしろ、嘘を言っているとは思えないような真面目な顔が、ちょっとカッコイイ、とか…何トカ。  この状況で、そんな事を考えてしまうオレの方が確実にバカだ。 「本当に、一人目」  オレのささやかな葛藤を余所に、塚本が嘘バレバレの念を押す。  こんな風に嘘を吐く奴だとは思ってなかったから、余計に腹が立つ。  人数を聞いたくらいで、オレが拗ねて手が付けられなくなるとでも思ってんのか?  そんなにガキじゃないぞ、オレは。  つーか、オレが拗ねると思うほどいるのか?  さすがに、二桁いってたらイヤだな。 「だーから……」  ウンザリしたように開いた口を、何の予兆も無く塞がれた。  今度のは舌を絡められるようなやつで、オレには何の抵抗手段もない。 「……んんっ」  押し退けるには手遅れだった。  どんな状況だろうと、それが塚本なら、拙いながらも応えようとしてしまう自分がイヤだ。  前はこんなんじゃなかった筈なのに。  でも、誰だって、気持ちイイ事には弱いから仕方ない。  まして相手が好きな奴だったら抵抗は無意味だ。 「……はぁ……」  唇が離れていくのがとても勿体無い気がして、けど、どうしたらいいのか分からなくて、ぼーっとしたまま塚本を見た。  塚本は、そんなオレの唇の端を指で拭いながら口を開く。 「俺のものにしたいと思ったのは、瀬口が最初」  うっ……。  キスの後にそれは反則だろ、塚本ぉ。  そんな屁理屈に誤魔化されないぞっ! と思っても、顔が弛んでしまう。  こんな甘ったるい雰囲気の中じゃ、何を言われてもダメです。  それならいっか、と思ってしまう。  ここは一つ誤魔化されてやろう、って寛大な気分になってしまうなんて、オレってやっぱダメすぎ。 「ホントに?」  疑う素振りを見せてはみたものの、訊くまでもなく真に受けている。 「本当に」  オレの首に顔を埋めた塚本が、心なしか弾んだような声で言う。  ヤバイ、と思った時にはもう、塚本の手はオレの着ているシャツの裾をたくし上げようとしていた。 「うわっ……塚本、ここ学校!」  バシバシと叩いて塚本の動きを止めようと頑張った。  だって、学校だぞ。  階段の踊り場だぞ。  会長は人なんてこないって言っていたけど、宮津さんも塚本も来ちゃったじゃないか。  他に誰が来ても全然不思議じゃないだろ。 「そうだった」  本気で忘れていたのか、それともボケなのか、塚本の声には全く悪びれが無い。 「……今、本気だったろ」 「かなり」  正直に言われるのも、この場合はちょっと問題だ。  うぅ……また拒んでしまった。  と、反省する。  オレの身体は、先に進みそうになると拒む仕組みにでもなっているのか? 「ごめん」  そのセリフは、オレではなく塚本のものだった。  反省するオレの態度が、塚本の目には違う風に映ったらしい。  つまり、「襲うような真似をしてごめん」と言わせてしまうように。 「違う。そーじゃない」  塚本が謝る必要ないのに。  だってそれは当たり前なんだって。  塚本なんだから、何してもいいんだよ。  ただ、その覚悟がオレの身体にはまだ浸透しきれてないだけで…。  次こそは、って思うのに、どうしてもダメだ。  でも、最初が学校ってのはちょっとなぁ。  なんて拘りも、塚本にしてみればどうでもいい事かもしれない。  浮気はしなくて、無理矢理も嫌いな塚本サンは、オレとの関係を後悔したりはしないんだろうか?  もっと簡単な奴が良かった、とか。 「オレのこと、面倒とか思ってる?」 「全然」 「でもさ、別れたくなったりしたら、遠慮すんなよ」  と、オレなりの精一杯の気遣いを言った途端、塚本に大きく息を吐かれた。 「瀬口……」  スッと塚本の手が伸びてきたと思った直後、頬に引っ張られるような痛みが走った。 「い、いひゃい」  溜め息混じりに人の頬を摘む手をペチペチと叩いて抗議する。  いきなり何すんだよ。  すぐに放してくれたけど、まだじんわりと痛みが残っている。  訳の解からないまま塚本を睨むと、ちょっと深刻な表情がオレを見つめていた。  ゆっくり近づいてきた顔が、息を呑むほど色っぽい。 「愛、足りてない?」  う。  そーいうの、不意打ち。  声も表情も言う事も、逆らい難くオレの好きな塚本だ。 「…………十分です」  やっと絞り出したのは呻き声に近かった。  塚本の愛とやらは、お子様なオレには眩しすぎて直視できません。  キスして、抱き合うだけで満足なオレには、これ以上頂いても持て余してしまいます。  と、真っ赤になっているであろう顔を逸らそうとするオレを、塚本は相変わらずの楽しそうな表情で笑って見ていた。

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