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第66話 巻き込まれるには情報不足 -4
いつもオレにするみたいな調子で吉岡さんの方へ飛んで行くのかと思っていたのに、仲井にその場から動こうとする気配はない。
「どうした?」
それどころか、無理矢理押付けられた義務のように仲井が訊いた。
吉岡さんの出現を、歓迎しているようには到底思えない。
オレはビックリして仲井を見上げた。
オレに絡んでくる時とは別人のような表情だ。
「捜したんだけど」
その後を察して欲しそうに言い澱んだ吉岡さんを見ながら、仲井は着ているTシャツの胸元を摘んでハタハタと風を送っている。
「何様?」ってくらい態度デカくて悪っ。
そんなに暑くないだろ。
「何か用?」
素っ気無く言った仲井のセリフの所為で、吉岡さんの身体が少し小さくなったように感じた。
オイ。
ちょっと待てよ、仲井。
相手は吉岡さんだぞ。
オレに「カワイイ」とか言って抱きついてくる人間が、どうして吉岡さん相手にそんな態度なんだよ。
いつもの「今日もカワイーねぇ」って節操なく寄ってくるキャラはどこへ行ったんだ?
言葉も態度も冷たすぎる。
とても、いつもの仲井には思えない。
何か悪いモンでも拾い食ったか?
言葉に詰まった吉岡さんが、チラリとオレを見た。
目が合った瞬間に逸らされて、嫌われていると思っていた時のことが頭を過った。
今の態度、まさにそれ。
気にしないでって言われたけど、やっぱちょっと落ち込む。
あれ?
今、何か掠めたような気がしたんだけど、掴めなかった。
えっと、この間吉岡さんは何て言ってたっけ?
「羨ましい」とか「嫉妬」とか……。
『だって、瀬口くんにばっか構うんだもん』
思わず吉岡さんと仲井を見比べてしまった。
もしかして、吉岡さんが言っていた「誰か」って……コレ?
やっと見つけた出口なのに、なんだかとても嫌なものに辿り着いてしまった気分だ。
……まさか、な。
「……もういい」
とても諦めたとは思えないように言って、吉岡さんが踵を返した。
その行動が予想外だったのか、仲井が僅かに身を乗り出す。
「へ? おい、何だよ」
大きめの声で仲井が言うけど、吉岡さんは振り向きもしないでスタスタと歩いていく。
引き止めるくらいなら、最初っからもっとちゃんと接すればいいのに。
わっかんない奴だな。
「……ったく」
舌打ちした仲井が、こっちを見て取り繕うように笑う。
「ゴメン、なっちゃん。またな」
そして足早に吉岡さんの後を追って行った。
別に、仲井が先に帰ろうが、オレが置いていかれようが、全く気にならない。
むしろ勝手にどっか行っちゃってください、だ。
なのに「オイオイ、ちょっと待て」と思ってしまうのは、目に映っている光景に対しての説明をしてほしいから。
吉岡さんに追いついた仲井は、その横に並んで何か言っているようだ。
二人は立ち止まらなかったけど、速度は吉岡さん一人の時より緩まった気がする。
少しだけ何かを話たかと思ったら、仲井は吉岡さんの腕を軽くポンと叩いてどこかへ走って行ってしまった。
そして、ゆっくりと吉岡さんの足が止まった。
仲井が触れた所を、反対側の手で押えるようにしている後姿が、信じがたい程せつなげ。
オレの存在を思い出したのか、遠慮がちに振り向いた吉岡さんが控え目に苦笑する。
それが、「ごめんね」と言っているように見えて、オレは乾き笑いしか出てこなかった。
マジですか? って、訊きたいような、訊きたくないような……。
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