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第69話 お節介とお説教 -1
ビラッと広げて見せた白いワンピースを前に、藤堂の顔色が変わった。
「絶っっ対にイヤだ!!」
力の限り叫んだかと思うと、ガタガタと机を押し退けて後退さる。
今日こそ逃して堪るか。
「いい加減、諦めろよ。藤堂がダダこねるから衣装合わせもできてないんだぞ」
オレはそんな藤堂の前に立ちはだかって、森谷の持つワンピースを指しながら言った。
もうすぐ文化祭本番だというのに、相変らず藤堂はミスコンに出場することを嫌がっている。
と言うより、藤堂が嫌がっているのは出場ではなく女装らしい。
そりゃあ、オレだってしろって言われたら嫌だけど、ここまで激しく拒否らないと思うぞ。
往生際悪すぎ。
そろそろ開き直ってもいい時期だと思うのにな。
当の藤堂が嫌がっているのプラス、下手に絡むと弓月さんが煩いからか、藤堂に強制する人はほとんどいない。
それが、今日まで一度も藤堂が衣装に袖を通してない理由だ。
だったら藤堂に投票すんなよ、と思ったけど、他に誰を選ぶと言われると困るのも事実だ。
それにしても、藤堂をミスコンに出すことになって、弓月さんのご機嫌はいかがなものなのだろうか。
元々滅多に会わない人だったけど、それが決まってから一度も会っていない。
怒ってないといいなぁ……。
教室の角に追いやられた藤堂は、キッとオレを睨みつけた。
「何でスカートなんだよっ! いいじゃねぇか、この制服で!」
「よくない」
藤堂があまりにも根本的な所に文句をつけるから、思わず即否定していた。
「ミスコンだぞ、ミスコン。趣旨分ってんのか?」
ウチの学校の制服はごく普通のブレザーで、これといって何か可愛いポイントがある訳じゃない。
そもそも、男子校の制服にそんなものがあったら定員割れで廃校になるだろ。
いつも見慣れている何の変哲もない制服で出て行って、観客が黙っているとは到底思えない。
皆が何を期待しているか、藤堂にだって分っていると思うんだけど。
「んなの分りたくもねぇ」
相変らず、頑ななまでに協力するつもりはないらしい。
オレだって、できればそんなの分りたくなかったさ。
けどな、実行委員やっていると嫌でも分ってくるんだよ。
上級生たちの期待がどれだけ大きいか、がな。
「優勝候補が制服だったら盛り下がるだろーが」
いくらなんでも、それにはこのオレですらガッカリだ。
「うるせぇ。勝手に候補にすんなっ」
残念ながら、それはオレの勝手じゃない。
耳に入ってくる前評判がそうなんだ。
確かに藤堂はカワイイ。
けど、性格がこれじゃあな……。
ある意味カワイイんだけど、オレの手には余る。
「何でそんなにイヤがるんだよ」
ただちょっとワンピースを着てみせるだけの話じゃないか。
「瀬口こそ、何でそんなにあんな恰好させたがるんだ!?」
「そういう行事だからに決まってんだろ」
「~~~~~っ!!」
当たり前の事を言っただけなのに、藤堂は言葉も無いくらいに悔しがっている。
「瀬口なんか……」
これでようやく諦めるかと思ったら、ギッと拗ねたような目で睨まれた。
「瀬口なんか、来年オレが実行委員になったら強制的に出場させてやる!」
「はぁ?」
「それで、構造のよく分らないヒラヒラした服着せて、『なっちゃん、カワイ~』って言ってやるからなっ!」
ややムカッとする捨て台詞を残してバタバタと藤堂が逃げた。
しまった。
ムッとして捕まえるのを忘れてしまった。
「あの藤堂に、よくあそこまで言えるよな」
感心したように言ったのは、今の藤堂とオレとのやり取りを傍観していた森谷だ。
「誰かが言わなきゃいけないだろ」
その「誰か」ってのが、オレ以外にいないらしいから言っただけだ。
あのまま何も言わずにいたら、何だかんだと当日も逃げそうじゃないか。
意外と、一回着てしまえば藤堂も吹っ切れてそんなに嫌がらなくなると思うんだよな。
「なんだかカッコイイよ、瀬口」
その褒め言葉は、ちょっと気分イイかも。
でも、素直に喜べないのは何故だろう。
言い方がしみじみとしすぎていた所為か。
「てか、あそこまでイヤがられると、意地でも着せたくなってくる」
藤堂があまりにも意地になって騒ぐから、オレもつられたのかも。
それに、困難が多い程、乗り越えて達成した時の喜びも大きいし。
「……瀬口って、もしかしてSだったりする?」
ボソッと森谷が何か言った。
「は?」
「イヤ……何でもない」
よく聞こえなかったから聞きかえすカンジで見上げたら、気まずそうに言葉を濁された。
何だよ、気持ち悪いな。
けど、追求なんかしている間に藤堂はどんどん遠くへ逃げてしまう。
「とにかく、オレは藤堂を捕まえてくる」
そう言いながら、オレは逃げた藤堂の後を追って教室を飛び出した。
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