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第80話 文化祭2日目 -1
文化祭二日目。
オレは朝から校内を走り回っていた。
何故か。
それは、ミスコン出場予定の藤堂の姿が見当たらないからだ!
ちらっとだけど藤堂を見かけた奴がいるから、登校はしているらしい。
けど、オレの前には一度も現れてない。
まさか、このままミスコン終了までどっかに隠れる目論見じゃないだろーな。
冗談じゃねぇぞ、オイ。
何であいつはあんなに頑固なんだよっ。
いい加減、もっと大人になれっつーの。
大体、何でオレが走り回って藤堂を捜さなきゃいけないんだ。
どうせ捜すなら、藤堂じゃなくて塚本がいいんだっつーの。
結局昨日は、あれから一度も塚本には会えなかった。
話したかったんだけど、帰るまでにもう一度会えなかったんだ。
いつもなら待っていてくれるんだけどなぁ、と思いつつ、昨日は周りに二年生の連中がいたから、なんとなく流されて先に帰っちゃったんだろう、と予想してみる。
あいつら、昨日はずっと塚本と一緒にいたくせにズルイよな。
帰りくらい、オレに返してくれてもいいのに。
で。今日は今日で、オレは朝からこんなだし。
学校には来ていると思うから、藤堂を捜しているついでにバッタリとかいう期待はしているけど。
なんて事を考えていると、塚本捜しのついでに藤堂捜しになってしまいそうだから、なるべく忘れるようにしてはいる。
でも、塚本に会えるといいなぁ、という本音は捨てられないけど。
「瀬口くん?」
廊下を走っていると、不意に声を掛けられた。
開場したばかりでまだ人通りも疎らなので、声の主はすぐに特定できた。
急ブレーキで停まって、通り過ぎてしまったその人を見る。
「渡部先輩!」
「随分と慌てているけど、何かあった?」
渡部先輩は穏やかな表情でそう言った。
オレが慌ただしく走り回っているから、問題が起こったと思ってしまったらしい。
「藤堂見ませんでした?」
先輩の前まで戻って訊いてから、二人には面識が無いのではないかと気付いた。
存在は知っていたみたいだけど、果たして渡部先輩は藤堂の顔が分かるだろうか。
擦れ違っていたとしても、気付かない可能性大だ。
だけど、そんな心配は無用だった。
「見てないよ」
渡部先輩は軽やかに即答して、他人事のように微笑んだ。
この人のことだから、どこかで藤堂を見た事くらいあるのだろう。
更に、オレにしたように、何かしらの助言をしているかもしれない。
「そうですか……」
しゅんと気分が落ち込んでしまった。
渡部先輩から手がかりを得られるなんて都合が良すぎると思っていたけど、全く何もなしっていうのも気落ちする。
このまま闇雲に探しても、絶対に見つけられないんじゃないかなぁ。
「もしかして、逃げられてる?」
オレの様子を見た渡部先輩が、少し楽しそうに訊いてくる。
藤堂はミスコン出場を嫌がって逃げているのだから、先輩にも関係あることなんですよ! と言ってみたところで、渡部先輩が一緒に探してくれる事なんてないだろう。
一緒に探してくれる望みは無くとも、先輩なら助けてくれそうな気がして、縋るように訴えてみた。
「そーなんですよ。今日がミスコンの本番だって言うのに、逃げる気なんじゃないかって心配で心配で」
むしろ、本番だからこそ全力で逃げまくるんじゃないかと。
藤堂はそこまで子どもじゃない、と思いつつも、やっぱり「でも」と信用しきれない部分もあるんだよな。
「それは心配だよね」
僅かに眉間に皺を寄せて同意してくれる。
「そんな瀬口くんに、一緒に来てもらいたい所があるんだけど」
「どこですか?」
「本部」
何か解決策でもあるのだろうか。
と、わずかに期待したオレが浅はかだったと思い知らされるのは数分後の事だった。
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