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第81話 文化祭2日目 -2

□ □ □ 「おっせーよ、渡部!」  文化祭実行委員の本部の扉を開けると、横井先輩の怒声に近い大きな声が響いた。 「ごめん。途中で瀬口くんをナンパしてきたから許して」  と言って、渡部先輩はオレを本部に引き入れた。  室内には、横井先輩の他に宮津さんもいた。 「それなら許す」  あっさり機嫌を直した横井先輩が、テーブルの上の段ボールの一つに手を置いた。  見覚えのあるその箱には、確か文化祭のパンフレットが詰まっている筈だ。 「どういう事ですか?」  全く状況が掴めないので、三人を見回しながら訊く。 「校門の受付にパンフレット無くなっちゃったんだって」 「と言うか、今日の分を持って行かなかった、が正解」 「それで、今から補充しに行く」  状況は分かった。  けど、それに何故オレが連れて来られた?  オレ、めちゃくちゃ焦って藤堂を探しているって言いましたよね、渡部先輩? 「オイ! 受付の補充まだかよ!?」  じとっとした目で渡部先輩を見ていると、開けたままだった本部のドアに突進してきた人がいた。 「大至急だっつてんだろ!」  走ってきたらしい綾部生徒会長だ。  生徒会長がこんなに焦っていると言う事は、本当に足りないんだな。  それにしても、三年生ばかり集まってしまって、なんかこの部屋の居心地めちゃ悪いんだけど。 「今持って行く所だよ。そんなに慌てると、せっかくの長所が台無しだよ」  悠長にそう言った渡部先輩は、段ボールを指した。  多分だけど、それを運ぶのはオレなんだろうな。  その為に連れて来られたんだろうな。 「なんだよ、長所って」 「顔だろ」  綾部会長の疑問に横井先輩が即答する。 「奇遇だよね。オレの長所も一緒なんだ」  にこにこ笑って言い切る渡部先輩、さすがです。 「まぁ、渡部はなー」 「唯一の取り柄だからね」  自分で言っちゃうの、二度目だけどさすがです、渡部先輩。 「ちなみに横井は?」  そして渡部先輩は話題を広げる。  いいのか、こんな所で油売っていて。  「大至急」って言っていませんでしたっけ? 「俺は、運動神経結構いいとか」  聞かれた横井先輩もちゃんと答えているし。 「そう言えば早いよねぇ、逃げ足」 「お前、もし短所聞かれる機会があったら、絶対に『性格』って言えよ」  全然話が終わらないんだけど、オレが切り出すべきなのか? 「じゃあ、宮津は?」 「何が?」 「自分の長所」  ついに宮津さんが巻き込まれた。 「オレには無いよ。そんな事より、早く持って行ったら?」  話題をバッサリ断ち切って、パンフレットの補充を促す。  今、この空間で一番頼りになる人だ。 「あるだろ、たくさん!」  ようやくこの場を離れられる、と思った矢先に綾部会長がそんな事を言い出した。  どうして会長がムキになっているんだ? 「何も思い付かないんだよ」  少しイラついたような宮津さんの声を聞いて、更に綾部会長が何かを言おうとしたので、仕方なくオレが口を開く事にした。 「あのー」 「なんだよ!」  綾部会長が邪魔だと言わんばかりこっちを見る。  あれ?  何でオレがキレられるんだ?  あと、綾部会長はどうして宮津さんの事でこんなに熱くなっているんだろう。  この二人って仲悪いんじゃなかったっけ?  しかも、忘れていたけど、オレを含めた三角関係の噂もあるとか無いとか。  こうして三人が揃うと、改めて誰がどこをどう見てそんな噂が流れたのか疑問だ。 「って、瀬口じゃないか」  会長は、オレがこの場にいる事を今気付いたらしい。  目に入っていなかったのか。  それも仕方ないけど。 「この前は悪かったな。あの後……大丈夫か?」  「……」の部分に色々な意味を含めてくれたようだ。  気を遣わせてしまって申し訳ないです。  綾部会長の言う「この前」とは、階段でオレが泣いてしまった時のことに違いない。  他に、この人と接点なんてほぼないし。  あれは、今思い返すと結構恥ずかしい。  浅野さんの事も、吉岡さんの事も、オレの勝手な思い込みだった訳だし。  綾部会長には迷惑を掛けたので、そういう意味では「何の問題も無かった」とお伝えすべきなのかもしれないけど、今はちょっと難しい。 「それは、はい」  多数の先輩達に囲まれているこの場では、何とも答えにくい。  余計な事を端折ったら、素っ気ない一言で済んでしまった。

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