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第82話 文化祭2日目 -3

「瀬口に何したんだよ、綾部」  妙な空気になってしまったオレと会長を見て、横井先輩が茶化すように言う。 「ちょっと世間話してただけ」 「怪しいなー」  誤魔化そうとしてくれる綾部会長の言葉を全く信用していない様子の渡部先輩が、さりげなくオレの手を掴んで自分の方へ引いた。  綾部会長と距離を取ってくれたようだ。  驚くことに、会長がオレに何かをしたと、本当に思っているのかもしれない。 「本当に、なんでもないんです」 「じゃあ、三角関係の噂ってどこから出たんだ?」  横井先輩に痛い所を突かれた。  三年生もやっぱり知っているんだ。  それに関しては、オレにもさっぱり理由が分からないので答えようがない。 「なぁ? 宮津」 「根も葉もないのは、いつもの事だろ」  楽しそうな横井先輩とは対照的に、冷静な宮津さんの声が少し怖いくらいだった。 「そんな事より……」 「思いついたか? 長所」 「は?」  勢いよく見当違いな事を言った会長を、宮津さんは眉間に皺を寄せて鬱陶しそうに見た。  拘るなぁ、会長。  でも、宮津さんが言いたいのは、そんな事ではないと思いますが。 「綾部よ、そんな気になるなら教えてやれば? 宮津の良い所」 「……俺が知る訳ないだろ」  横井先輩の提案に、綾部会長は気まずそうに答えた。 「言いたいって顔してたけど?」 「してねぇよ」  渡部先輩の指摘も即座に否定する。  横井先輩も渡部先輩も、何がそんなに楽しそうなのかオレには分からないが、綾部会長が困っているのは分かる。  そして、宮津さんはその様子を遠巻きに……見てもいない。  テーブルの上の段ボールに手を掛けようとしているので、オレも手伝おうと近寄った。  俯いた宮津さんの顔が赤くなっているように見えた。 「宮津さん、顔赤いですよ。大丈夫ですか?」 「大丈夫」 「具合良くないなら……」 「とにかく、この場を離れたい」  事情はともかく、オレと同じ事を思っている人がいるなんて心強い。 「何やってんスか!?」  開けっ放しだった本部のドアに突進してくる奴、再び。  今度は実行委員の藤吾だった。  会長と同じく、全速力でやって来たらしい藤吾は、ドアに凭れ掛かるようにしてズルズルとその場に崩れ落ちた。 「大至急って言ったじゃないですかー」 「あっ」  受付のパンフレット不足をようやく思いだしたらしく、綾部会長が声を上げた。 「うっかり忘れてた、すまん」 「忘れるなー!」  素直に謝った会長に、床に座り込んだ藤吾が叫ぶ。 「綾部には、宮津の長所の方が重要だったんだよな」  朗らかに言うのは、当然の如く渡部先輩だ。  そんな事を言われても、息を切らす藤吾には何の慰めにもならないだろう。 「長所ってなんスか、長所って!? 生徒会長と実行委員長が揃ってミイラ取りがミイラ状態で、どんな重要な事かと思えば宮津さんの長所って……」  結果的にここで一緒に時間を無駄に過ごしていたオレが言うのもなんだけど、気持ちは分かる。 「とりあえず、受付に持っていけばいいんですよね」  テーブルの上の段ボールを一つ抱えて、今更ながら聞いてみる。  とても遠回りをしたような気がするけど、ようやくこの部屋から脱出できる。  流れをブッた切ってくれた藤吾に感謝だな。 「そう」  もう一つの段ボールに手を伸ばしながら渡部先輩が頷いた。 「悪いね。人探しの途中なのに」  言われて、少しの間オフになっていた、藤堂探索中のスイッチが入った。  忘れていた訳じゃないけど、改めて言われると少し焦る。 「でも、そのコなら、多分大丈夫だと思うよ」  じわじわと焦るオレとは対照的に、渡部先輩は軽く太鼓判を押した。 「待っていれば、時間までには現れるって」  どんな根拠で、そんな自信たっぷりにそんな事が言えるんだろ。 「だって、頼りになる保護者が付いてるでしょ」  オレが「何で?」と思っていたのが分かったらしく、渡部先輩はそう言ってこっちを見てふんわりと微笑った。  保護者って、きっと弓月さんの事だよな。  前にそんな事を言っていたの聞いたことがあるし。  渡部先輩は弓月さんの事知っているのか?  同じ学校なんだから、そういう意味では知ってはいるだろうけど、でも今の言い方って、それだけじゃないみたいな感じもあるような…。  でも、弓月さんって有名だし、渡部先輩の情報網も広そうだし。  思い過ごしかな。  それに、どういう事か分からないけど、渡部先輩に言われると、本当にそういう気がしてくるから不思議だ。 「大丈夫ですか、ね?」 「大丈夫だよ」  念を押すように訊いたら、訊くだけ無駄な軽さで微笑まれた。  どこまで信用していいんだろ。  まぁ、ミスコンの司会はこの人なんだし、ここまで言うって事は、いざとなったら何とかしてくれるよな。 「でも、やっぱギリギリまで探してみます」 「うん。それもいいんじゃない?」  ヘラリと微笑まれて、「どっちだよ」という言葉を飲み込んだ。  渡部先輩にとっては、どーでもいい事らしい。  なんだか、こんなに必死に藤堂を探しているのが無駄な事のように思えてきた。  こんな事やってないで塚本に会いたいなぁ、なんて無意識に考えている自分が恥ずかしくなって、照れ隠しに盛大な溜め息を吐いた。  今どこにいるのかな、塚本は。

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